「やめなよそういう言い方、前は人間が散歩するので当たり前だったじゃん。外歩くってカラダに大事だよ。街ですれ違う人と他愛無い話したりさ。犬と触れ合うのもリラックスできるし」
「まぁそうだけどさー。もうそんな時代じゃないっていうか」
「まぁまぁ、祥子は昔のものが好きだし、竜太は機械が得意だし、大学生の頃から変わってないってことじゃん、いいからいいから」
私がなだめると、祥子は一瞬寂しそうな目をして、そうだね、と言った。
「機械じゃなくてもうそれが日常なんだって」
言いたいことを全部言わなきゃ気が済まない竜太を恵美子が、わかってるわかってると頷いてあげる。
ロボットが餃子を運んでテーブルに乗せてくれる。私はサワーを飲み干し、台の上に置く、もう1杯と言うだけでロボットはすぐにもう1杯を持ってきてくれる。
「それで?竜太結婚するって、何あの急なメッセージ」
「あ、聞いた?新しいメッセージシステム、すげぇだろ、うちの会社で開発したやつでさ、腕のディスプレイに俺のアバターと声で届いたろ?」
「そこじゃなくって、まぁそれはすごかったけど」
すごかったけど、と聞いて、竜太は俺の開発したバージョンアップなんだあれと嬉しそうだ。
「だから、結婚」
恵美子が話を戻す。
「あ、あぁそう、そうそう、俺結婚することにした」
ロボットと?と言いかけた祥子を恵美子が大げさな、えぇーという声でかき消す。
「マイっていうんだ」
「マイ?AIでしょ?」
AIの名前は、名前の中にAIを入れるのが国の決まりになっている。三上AIとかサキコAIみたいに。
「MAIだって。名前のあとにAIってつけるなんてあからさまなことするかよ。戸籍登録ではミヤAIらしいんだけど、俺と結婚すれば変えられるから、MyAIっていう意味も込めてMAI」
あまりに真剣な顔で語るので、私たちは、へぇとしか言えなかった。
「と、登録があるってことはずっとどこかで暮らして来てる子なんだ?どこで会ったの?」
よくぞ聞いてくれたとばかりに竜太が嬉しそうな顔をする。
「仕事で新しいシステム導入するんで研修に行ったわけ、そしたらそこで受付やってたんだよ。この辺にはさ、いろんなAIいるけど、地方だぜ地方、地元の人たちにも愛されててさ、それで、声かけたってわけ」
「受付嬢ってやつだ」