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『妻よ、君がその手を離すまで』籐子

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 会社に戻ると、社内のみんなにお疲れ様の言葉と花束をもらい、私は業務を終えた。
 ここで過ごした時間を噛みしめながら、私は最後の大仕事の為に、再びバスの運転席に座った。何故か宮本も乗ってきた。
「何でお前も乗るんだよ」
「いや~、大先輩の最後の大仕事ですから、見逃すわけにはいかないっすよ。ちゃんと、写真にも残しておこうと思いまして」
「大先輩なんて、思ってもないくせに」
「あ、ばれました?」
「ばればれだ」
 バックミラーに映る宮本は相変わらずへらへらしいているが、妻と私の時間を写真に残すために、そして、足の悪い妻のバスの乗り降りを手伝う為に乗ってくれているのだ。素直じゃない宮本の優しさが、心に染みた。

 家の前にバスを止め、チャイムを鳴らす。
 玄関のドアを開けた妻は、驚いて声が出ていなかった。
「最後のバスドライブ、付き合ってくれないかな」
 私は手を差し出した。
「え?なに、これ?」
 妻は状況を理解できないまま、私の手を握り、導かれるままゆっくりと歩いた。
「ウメさん、お久しぶりです、宮本です!」
「あ、宮本君。これ…なに?」
「いや、寛太郎さんがね、定年祝いに何がほしいかって聞いたら、奥さんとバスデートがしたいって無茶なお願いをしてくるもんで。ま、僕が一肌脱いだって訳です」
「え…?そうなの?」
 妻は目を丸くして私を見た。
「この町を…君とゆっくり見たいと思ってね」
「何照れてんすかー!」
 宮本がにやにやしながら私を茶化す。妻も恥ずかしそうに笑った。
「うるさいよ。さ、行こう」

 妻を乗せて、私たちはこの町を走った。
 二人でよく来た定食屋さん。プロポーズした公園。家族で来た河川敷。美鈴の小学校。馴染みの店が並ぶ商店街。妻の大好きなデパート…
 妻は目の前に現れる懐かしい景色を前に、子供のように無邪気に笑いながら思い出話に花を咲かせていた。

 私は妻の笑顔を横目に見ながら思った。
 私のこれからの人生は、再び妻と出会い、二人の時間を愛しむための時間だ。過去に思いを馳せるのでなく、今を二人で生きていくための時間だ。たくさんの仲間がいるこの町なら大丈夫。
そして必ず、またあの観覧車に乗ろう。今度は、美鈴と翔も連れて。

 遠くに見える観覧車が、今日はまぶしいほど輝いて見えた。

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