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『左手婆ちゃんと魔法の杖』秋之ノリ

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「う、うん」

「ソコだけわかっていれば、あとは難しく考えなくていいんだ。そうさね、隆史がココに立って魔法の杖を振ると、皆に魔法をかけちゃえるのさ。歌う人も、聞いている人も、ときには自分自身にも。大丈夫、私しゃあ、ずっとアンタが唄うとこ、指揮棒を振るとこを見てた。できるよ」

 そして、指揮棒を僕の手に握らせた。正直、僕は戦隊モノのヒーロの方が好きだと言いたかったが、婆ちゃんの目が輝いていて、体全体から発せられる魔法使い的な雰囲気が、その時は怖いというより、魔法という言葉に現実感をプラスしていた。

 自分を、なにか特別な存在にしてくれるんじゃないかとか。とにかく、あんな凄い演奏をできるヒーローのような婆ちゃんがすごく僕をワクワクさせてくれるんじゃないかとか。婆ちゃんが僕の背中を押そうとしてくれているんじゃないかとか。

 小学生の僕は思ってしまった。まるで魔法にかけられたように。

◇◆◇◆

 河川敷での気分転換の練習は、雄大な夕日を前に、なんか小さなことでクヨクヨしてたなって皆が思えたことで上手くいった。

 僕は夕日を背に、河川敷に集まってしまった散歩中のギャラリーを前に指揮をして、多くの人達の拍手をもらったことで自信をつけた。婆ちゃんが、外の広い場所で練習することで少々ギャラリーが集まっても大した人数に見えない、という効果まで狙ったかは定かではない。あの婆ちゃんならそこまで考えててもおかしくないという思いを、なんとなく皆が心に留めていた。

 だがしかし、その婆ちゃんが発表会当日を欠席した。

「やっぱり来れないって、浅野さん」

「いやぁ、まいったな。まあ、指揮者が今回は隆史くんに変わってたのは不幸中の幸いだな」

 僕が指揮棒を振って、皆を先導する。婆ちゃんが居ないのが、どんなに僕にプレッシャーとなったのか。婆ちゃんがいない、いない、いない。それだけで僕は手が震えた。

 そうだ、アメだ。緊張した時に食べようとポケットに入れといた飴。ポケットから震える手で取り出して、指揮棒を落とす。はははっと笑いながら、とにかく袋を破って、かわいた口にほおりこむ。指揮棒をとってしゃがむときに喉に詰まりそうでビックリした。さらに心臓がドキドキする。

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