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『左手婆ちゃんと魔法の杖』秋之ノリ

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「で、どうだろうね、これから河川敷に行って、歌おうか」

「えっ? 河川敷ですか?」

「そう多摩川」

 僕らは婆さんの発案で、多摩川河川敷で歌を披露することが決まった。さっそく、婆さんは、乱入してきた吉岡のオジサンに発表会のポスターをもたせている。

「あんたも、来てよ。で、このポスターもってちょいとマスコットやってくれるかい? ついでに河川敷で発表会の宣伝しようよ」

「ま、まあいいけど、マスコット? 俺が?」

「ああ、ほら、今はやってるテーマパークにも居るだろ? あれさ」

 僕らはクスッとわらった。吉岡のオバサンも笑っている。オジサンがまんざらでないのがおかしかったのだ。酔っ払いも、婆さんのペースにはまっている。いつの間にか。

「それと、もうひとり、マスコットが必要だ。隆史、こっちきな」

 急な指名に、僕は驚いた。婆さんが、そんなに懐いていない僕を指名した。僕は言われるがままに皆の前にでた。

「あんた、指揮者やってみなよ。私が来れない時に代役してくれてただろ」

「えっ? 僕がですか? だって、僕は浅野さんがいない時の代理だって」

「私のワガママなんだけど、今度は歌いたくなったのさ」

「でも僕……」

「ちょっと、台に上がってごらんよ。皆の方を向いてみなさい」

 そう、そんなふうにまっすぐに目を見て言われると、嫌と言えなくなるのだ。

 婆さんが左手を差し伸べてた。僕はためらったが、婆さんに抗うこともできずに、その手をとって台に上がった。婆さんの左手のひらは小さくて、ほのかに暖かかった。

 皆がコッチを見ていた。相手は二十四人、こちらは一人である。四十八個の目にさらされることなど、練習だって緊張するし、この数ヶ月で何回やっても慣れはしない。なのに、婆さんは僕を窮地に追い込もうとする。嫌と言わないのも悪いのだが。言えない。顔を赤らめてしまう。ドキドキして押しつぶされそうになる。

「なあ、隆史。皆が君を見てるだろ。指揮者はね特別なんだよ。この二十四人とピアニストと観客と皆が君を見てるんだ。このね、音楽が生まれる世界の中心に君は立っているのさ。先程の私を思い出すんだ。音楽を生むのは私だったよ。でも音楽を感じるのはココにいる皆でだ。ソコがわかっているか、わかってないかじゃ違うんだ。指揮者も同じさね」

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