「おれたちは遊園地のなかで生きてきたのかい?」
「生きているのは一瞬の夢中で、だれもが、夢をみているのさ」
「西蒲田の町を上から見ていると、そんな気がしねえでもねえ」
そういって、狡そうな目でちらりと栗山を見た。
「ところで、来週あたりわれわれをおまえのマンションへ招待してくれんか」
「お安い御用だ。予定があると、生きるはりあいがでてくる」
観覧車から降りると、先に観覧車を降りた5人が待っていた。
「今日はありがとう。このつぎは、ぼくが招待する番だ。引っ越した多摩川のマンションへみなで遊びにきてくれないか」
須田の女房が両手を胸の前で合わせた。「いくわいくわ」
「明子さん、順一クン、マリちゃんもきてくれるかな」
明子はまぶしいものを見るように栗山を見て、黙った。
須田の女房が明子と栗山のあいだに割ってはいった。
「明子さんは口下手で、思ったことの半分、いやいや、三分の一もいえないの」
明子がゆっくり口をひらいた。
「子ども遊ばせる時間がなくて、かわいそうな思いをさせてきました。本当に今日はありがとうございました」
「それじゃ栗山さんのご招待をうけてくれるわね」
明子は須田の女房をじっと見た。
「どなたか知らないのです」
植村がひょうきんにいった。
「なかまなかま、蒲田の仲間で、おれや須田の同級生さ」
植村は、アパートの大家と交渉して、家賃を負けさせ、いくらかもちだして借りを清算したが、そこまでで、明子親子3人のつぎの住まいはまだきまっていなかった。
明子が押し黙ったので、日時だけをきめて、栗山は、東急プラザのエレベーターホールでみなと別れた。
明子が深々と頭を下げ、その横で、マリがふしぎそうな顔で、栗山が消えたほうへいつまでも目をやっていた。
二週間後、栗山は、テーブルに花を飾って、一行の到着を待った。
明子が来るかどうかわからなかったが、来てもらいたかった。
胸に突き刺さるものが消えたわけではなかったが、かまたえんで二人の子を遊ばせたとき、胸のなかに空白だけがあって、ほかにはなにもなかった。
かなしみの記憶は永遠に消えないが、つかのま、忘れることはできる。
ピンポーン。
「きた」
須田と植村を部屋に案内したところで、玄関で女の声がした。