当麻は帰り際、たまには東京にも遊びにこいよ、と呟いた。
遊びに、と言われても、スカイツリーも東京タワーも、お台場も、観光名所は大抵行き尽くした。
「どこか行ってない場所でもあったかなあ、東京の名所は大体行ったと思うけど」
「ばーか。俺たちが遊ぶって言ったら蒲田に決まってるだろ。蒲田の飲み屋集合」
「飲みの誘いかよ」
ただの飲みの誘いなのに、どこか懐かしくて、嬉しい響きだった。定例的ではない、ちょっと夜にお酒を入れて話したい、そんな風に誰かを誘う時の台詞。
「ま、飲みにだけ来るのも新幹線代もったいないし、観覧車に乗って、食前のおやつにアイスをつまんでから飲むのもいいかもね」
「あ、俺、地味に観覧車乗った事ないかも」
駅に隣接しているデパートの屋上に観覧車があることは知っていたけれど、実際に乗った事はない。乗る年齢でもないし。
「あれね、そこそこ高いビルの屋上に設置してあるせいか、結構迫力あるんだよ」
「てか遊びに行くねっていう約束が観覧車って」
「そうだな、次に来る時は彼女連れてこい。じゃないと男4人で観覧車に乗ることになる」
「なんだよそれ」
男4人もまあまあ面白そうだけどな、完全に学生ノリだけど。
そして当麻は改札の向こう側に去って行った。
厳しい冬が過ぎて、また春がやってきた。
改札を抜けて、特別な観光名所なんて何一つないはずのこの駅に、俺は再び降り立った。後ろには黒髪・色白・もち肌の彼女。人ごみに圧倒されつつ、俺の後ろをぴったりと離れない。
「蒲田ってさ、何があるの?」
彼女にとっては初めて降り立つ駅だったようだ。
「うーん。観覧車と、飲み屋と、あとは……」
しゃべりながら改札口まで向かうと、背の高い当麻の姿がすぐに目に入った。
当麻の横には他の同期の姿も見える。
「義理堅い友達」
そう言って、彼女と二人、改札を出た。