改札を出ると妻と息子がすでにいた。
「これ土産」と言って手作りハンガーを息子に渡すと面白くなさそうに妻へと早々にパスしていた。妻も呆れていた。
息子は東急プラザの屋上にある観覧車を見つけていたらしく、帰りに寄ることを約束させられた。俺がここに居た当時も何度か乗ったことがあることを思い出した。今もあることに驚いて見上げると、可愛らしさは相変わらずであったが真新しいらしく輝いていた。変わっていないけど変わっているようだ。
二人には昼飯を食おうと言ってあった。
「近所で良いじゃん」と妻には言われたが、どうしても連れて行きたい店があると説得した。ただし、どんな店で何を食べるかは妻には伝えていない。教えたら断られると思ったからだ。実際、『レイン』にはサンドイッチくらいしかなかったように思う。
俺たちは『レイン』のある西口商店街へと向かった。
妻と息子は初めて降り立つ街の全てが新鮮らしくキョロキョロしている。そして、俺も俺で二十五年ぶりにやって来た身であるため、街の変わり具合に目を白黒させていた。
だが、同時に郷愁めいたものを感じていた。
街は生き物であろうから店の入れ替わりがあり、古い建物が取り壊されて、新しい建物ができたりと常に時代の中で新陳代謝を繰り返している。この街もご多分に洩れていない。だが、街を包む空気は変わっていない気がした。俺にとってのこの街。栄えているけれど気取っていなくて親しみやすい街。それが今もあるように思えた。
昼時のせいか多くの人で賑わっている。これだけ人がいるのだから『レイン』だってお客さんにはきっと不自由していないだろう。
俺はネットで調べることはあえてしなかった。何故なら、万が一店がなくなっていても、誰かの風聞ではなく自分の目で確かめたかったのだ。
妻と息子を連れて西口商店街を歩く。
まさか俺が家族を連れて歩く日がやってくるとは想像もしていなかった。いつか息子が俺と同じような年になって、自分の子供とこうやってこの街を歩く日が来るのだろうか。もしくは、俺が先にじいさんとして孫の手を引いているかもしれない。
もしや知った顔がいないかと通り過ぎる人々を見渡しながら歩くが、誰もいない。あれほど駆け回っていたみんなは、どこに行ってしまったのだろう。無論、大人になってあの時と同じように駆け回っているわけがないし、もう四半世紀も経ったのだから、実際にすれ違っても気が付かないかも知れない。
歩みを進めているとチェーン系のカフェがあった。どこにだってある便利な店だ。しかし、不安がよぎる。確実にこの手の店の方が『純喫茶』と掲げられている店よりも入り易いだろう。店内の様子を覗いてみると賑やかで、明るい。
俺の記憶の『レイン』の店内は広くゆったりとしているけれど、薄暗くて少し古ぼけていたし、タバコの煙が立ち込めていた。今ならば、子供をそんな所にと怒鳴られてしまいそうだ。でも、その時は、それが普通だったので今の基準で良し悪しは決められない。
「なんか懐かしい感じのする商店街だね」と妻が呟いた。