「今のお気持ち、誰に伝えたいですか」
部長、完全に酔っ払いの絡み方だ。
「えっと・・・」
苦笑いだよ梨花、可愛そうに。気の毒だったのでちょっと手を振ってみたら、小さくウィンクを返された。・・・不覚にもドキッとしてしまった。
「おっす」
トンッとグラスの置かれる音がした。ぼーっと茶番劇(失礼)を眺めていた目をそちらに向ける。声の主は横山さんだった。
「田村があんまりにもしつこいんで避難しに来た」
横山さんはそう言って笑うと、私の隣に座った。ちょっとちょっと、心の準備が・・・。
「田辺、確か同期だったっけ」
「え?」
「いや、見てたからさ」
今みんなの前に立っているヒーロー、もとい、ヒロインに最初の話題を取られてしまった。・・・まあ、かといって私に話題の用意はないのだが。
「お前らの代は優秀な人材が多くて助かるよ。ほら、今度俺と一緒に本社に行く金子も、確か同期だったろ?」
「あ、東京行くんでしたね」
横山さんは次年度に東京の本社への異動が決まっている。昇進というやつだ。
「おめでとうございます」
「お、ありがとう」
横山さんは照れ臭そうにビールを一口飲んだ。・・・可愛い、と私は思った。
「みんな、凄いですよね」
「なー。俺がお前らぐらいの頃、あんなに出来たかなあ」
「またまた」
私もホッピーを一口飲む。
「なんか、私だけおいてけぼりにされちゃってるみたいです」
「ははは、何だよそれ」
「いまだにミスも多いし、成績も良くないし」
あー、私、何言ってるんだろう。せっかく横山さん楽しそうにしてたのに。
「すみません、変な話を」
苦笑いでその場を繕いつつ、私は何か別の話題を探す。
「俺も入って三年、ちょうどお前ぐらいの時、どうにも仕事が上手くいかなくってさあ」
東京の話、いや、それは結局仕事の話になっちゃ・・・。
「え?」
「何かわからないけど、上手くいかないんだよな、そういうときって。自分が出来ない理由が全くわかんなくてさ・・・。でも、俺はあんま頭良くなかったから、ただがむしゃらに仕事して、そうしたらいつの間にか何とかなってた」
・・・何だそれ。全然根本的解決になってない。・・・なんだか可笑しくて私は吹き出してしまった。それを見て、横山さんも私に笑顔を返す。