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               国際短編映画祭につながる「ショートフィルムの原案」公募・創作プロジェクト 奇想天外短編映画 BOOK SHORTS

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『薄くて苦い』竹原達裕

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 ひときわ大きい声が聞こえて、私は思わずそちらを向いた。同部署の田村さんだ。相変わらず豪快だな。ていうかなんだそのベタな酔い方。
「なんだお前そのベタな酔い方」
 感想が被ってしまった。横山さんと。・・・ちょっぴり嬉しい。 
「おいおいおい、しらけてんなぁ。もう一杯行くか」
 田村さんは横山さんの肩に手を回し、ぐいぐいと揺らしている。ジョッキに残っているビールも、それに合わせて揺れる。
「やめろって、こぼれちゃうから」
 田村さんの絡み酒は今に始まったことではないので、周りのみんなは笑いながら遠巻きに眺めている。横山さん、いっつも標的にされてるな・・・。二人は高校の頃からの同級生、同じ野球部だったらしく恐ろしく仲が良い。一時期交際疑惑がかけられていたほどだ(もちろん事実無根)。
 横山さんは、私が入社したときに指導してくれた先輩だ。入って間もない、何をすればいいかもまるで分らない私を、時に優しく、時に厳しく・・・いや、卒業式の呼びかけじゃないんだから。とにかく、指導してくれた先輩だ。思えば新人の頃の私のミスは、ほとんど横山さんがフォローしてくれていた気がする。私が深々と頭を下げると、横山さんはガシガシと頭を撫で「気にすんな」と笑うのだ。
 大きい手だった。働く男の人の手。私はあの手が好きだった。あの指輪がはめられるまでは。
 今日の飲み会は、先月の営業目標達成のご褒美。言ってみれば打ち上げみたいなものだ。あちらこちらでにぎやかな声が聞こえる。横山さんの左手薬指の指輪も、心なしかいつもより輝いている気がする。その光を見るたび、私は憂鬱になった。

 
「はい、皆さん注目!」
 部長が急に前でしゃべりだした。何かあるのかな。まばらな注目を集めた部長がわざとらしい咳ばらいをしてから口を開く。
「ここで、先月の営業成績トップの発表です」
 あー、そうだ、あったあったそういうの。久しぶりだから忘れてた。
「栄えあるトップ営業レディはー?」
 聞いたことがない単語だ。性別わかっちゃったし。社員一同からの生暖かい目線が部長に送られている。当の本人はノリノリなのが余計に痛々しい。・・・あれ?女性で営業成績トップって。
「はい!田辺梨花さん!」
 やっぱり!梨花だ!部長が手招きし、梨花も前に立たされる。周りからは賞賛と同情が入り混じった目線を向けられている。せっかく営業成績トップなのに、なぜこんな辱めを・・・。
 私と梨花は同じ大学の出で、三年前に同期入社となった。大学時代も、所属していた演劇サークルの制作としてその手腕を如何なく発揮していたようだった(ちなみに私はサークルや部活には所属していなかった。帰宅部万歳)。とにかく人受けが良く、客の中には彼女に会いたくて劇場に来る人もいたという。制作の仕事をしていてどうしてファンが出来るのか、私の中では永遠の謎だ。

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