「特に問題はないですよ!毎日楽しいです!もう前のような失敗しないように注意もちゃんとしてますし!」
瞳の言う失敗というのは、書類作成のこと。瞳はパソコン操作が苦手でよく前の記録を消してしまったりしていた。その時瞳は泣きながら謝って来たことを思い出した。それからパソコン教室にも通うようになったようだ。
「それなら良かった。そういえば瞳ちゃんはお酒好きだけど、やっぱり両親とも好きなの?」
「そりゃ九州の人間なので父も母も半端無いくらい飲みますよ!私もその血が流れてるんで」
瞳は鼻の穴を広げてみせた。自慢する時の癖である。
「そっか、そういえば昔、ばあちゃんと2人で九州に旅行行ったのを今思い出した!」
笹川は遠い記憶を伝った。
笹川が中学に上がったばかりの話だ。夏休みに祖母が急に九州に行きたいと言った。なんでも祖母がまだ幼い頃に九州に住んでいたことがあるという。熊本城の近くだったそうで詳しい住所はもう覚えていないらしい。それでも久しぶりに熊本城を見たいということで一緒に旅行をすることになった。その頃には祖母の病気も悪かったのだろう。しかし、そんなそぶりを一切見せないので笹川は病気を絵空事のように思っていた。
熊本へは飛行機で行った。空港に着くとすぐに熊本城に向かった。祖母はとても嬉しそうに当時の事を笹川に語った。九州での暮らしはきっと楽しい時間だったのだろうと思った。熊本城から出ると他にもいろいろ観光地を回り宿に着いた。泊まった宿は小さな民宿と行ったところで、夕飯は強度料理を中心にいろいろとお腹がパンクしそうなほど出してくれた。次の日はお昼過ぎには東京へと帰った。1泊だけだったが楽しい思い出だった。
「おばあちゃんこと話す笹川さんって子供みたいですね!」
瞳は上目遣いでそう言った。
「おばあちゃんこだったから当時のこと思い出しちゃうと子供に戻るのかもね」
ちょっと恥ずかしそうに笹川はグラスのホッピーを飲み干した。
久しぶりにアルコールを飲んでいるのと瞳のペースに着いていっているせいなのか酔いが回るのが早い感じがした。瞳は相変わらず酔っぱらったという感じは一切ないがそれでもテンションが上がっているのがわかる。
「瞳ちゃんはやっぱり強いね!俺なんてもうフワーってなってる」
「先輩はちょっと弱いですよー!そんなんじゃ彼女なんてできないですよー!」
ケタケタと笑いながら瞳はグラスの残りを飲み干した。
女将にお変わりをもらうと、笹川はいたずら心でこう言った。
「じゃあ、酒が強くなったら瞳ちゃんは俺の彼女になってくれるのか?」
ニヤリとしながら瞳は
「そうですね、前向きに検討してあげますよ!」
笹川はニヤリとして
「じゃあ、今日は瞳ちゃんより飲んでやるぜ!」
望む所だといわんばかりに瞳はまた自分のグラスを空にした。笹川も負けじと空にする。しばらく良い勝負が続いたかと思われたがやはり笹川がギブアップした。
女将と瞳の話し声が聞こえる。笑い声も聞こえる。そうやら酔いつぶれて寝てしまっていたみたいだった。
「ごめん、寝てしまって」