いよいよ明日で30歳か…
笹川はため息まじりにヒトリゴトを呟いた。
仕事は介護士をしている。幼い頃から両親が共働きということもあり、祖父母といる時間が圧倒的に多かった。特に祖母にはずっとくっついて回っていたという記憶が合った。小学校に入ってから段々と友達と過ごす時間が増えて行ったがやはり家に祖母がいると思うだけで安心感があった。祖母はお酒が好きだった。コーヒーに日本酒を入れて飲んでる姿を見た時に祖母は本当にお酒が好きなんだなと思った。だからなのか、たまに眠れない日は祖母のやってた通りにコーヒーに日本酒を少し入れて飲むで寝る。そうすると自然とぐっすり眠れる。祖母のことを思い出すからかもしれない。
祖母は初孫だった笹川をすごく可愛がった。転んで泣いた時、友達と喧嘩した時などは、必ず3回頭を撫でてくれて「その痛みを今から食べてやるからな」と言った。本当に食べてくれるわけでもないがその言葉を聞くだけで自然と痛みが消えていった。不思議なおまじないだった。だから祖母がいれば無敵だと思っていた。
そんな祖母が笹川が中学校3年生の時に病気で他界した。心臓の病気ということだったが詳しい病名はわからない。その時笹川は、すごくすごく悲しくて泣いた。いつでも家にいてくれるものだと思っていた存在が消えた。良い事悪いこと全部見てくれたそんな祖母がこの世からいなくなるという恐怖もあった。とにかく泣いたことしか覚えていなかった。そしてその年の高校進学の際に担任の先生が将来のことやいろんな仕事のことを教えてくれた。祖母がなくなって落ち込んでいたことも担任にはわかったのだろう、介護士という職業の存在も教えてくれた。高校を卒業すると介護士になるべく専門学校に進んだ。その頃には祖母に対しての感謝の気持ちが大きくなり、今までの祖母への恩を返す方法としていた。
明日で30歳という節目の年齢になるというのに…
昔からの妄想とのギャップに笹川はまたため息をついた。
小さい頃に描いた30歳はもっと大人なイメージがあった。結婚してたり子供も2人くらいいたり、マイホームを立てて日曜日は家族みんなでドライブをして。
笹川は施設のロッカーで帰り支度をしながら小さい頃の妄想を思い出していた。
職場は特別擁護老人ホームで、夜勤もあるけど笹川は嫌だと思ったことがなかった。今日は日勤だったので夕方に終わった。働く時間も不規則ということもあり、段々と友達とも疎遠になっていた。彼女もいない。もちろん、彼女がいらないわけではないが出会いというのがあまりない。一時期、同僚と付き合ったこともあったが、職場が一緒ということで喧嘩をしたりすると気まずくなったりもした。その彼女とは、彼女が体力的にキツくなり仕事を辞めたのがきっかけで疎遠になった。いわゆる自然消滅なんだろう。もう1年ほど前の話だった。
「お疲れさまです!先輩、今日はもう終わりですか?」