ロッカー室から出て来たところで後輩の柏木瞳から声をかけられた。瞳は今年専門学校をでたばかりでこの施設に入って8ヶ月ほどたった。年の瀬ということもありスタッフも順番に冬休みを取る時期でもあるので人手が少なく話す余裕もあまりなかった。
「お疲れさん!瞳ちゃんも今終わり?」
「そうなんですよ!ちょうど良かった!一緒に帰りませんか?」
いいよと笹川が言うと足早にロッカー室へと消えて行った。笹川は瞳が戻ってくるまで施設入り口のロビーに腰を下ろして待っている事にした。
瞳は20歳なのでちょうど10個年が離れていた。人懐っこい笑顔がチャームポイントで笹川にとって妹のような存在である。瞳が入ったばかりの時に瞳の研修をしたこともあった。飲み込みが速いので独り立ちをするには時間がかからなかった。頼りになる後輩である。
「お待たせしました!帰りましょう!」
瞳は施設のユニフォームから白いダウンコートにジーンズ姿に変身した姿で現れた。ユニフォームに見慣れているせいか、私服を見ると別人に見えた。妹から他人へと変わる。
「よし!帰ろう!明日は日勤かい?」
「明日は休みなんですよー!!」
瞳は満面の笑顔で言った。
「俺も休みなんだよね!じゃあ、久しぶりに駅前のおでんやでも寄ってくか?」
人手不足のせいで昼飯もあまり食べる暇がなかったせいか笹川は空腹の限界に近づいていた。
「やった!嬉しいです!行きましょ!!」
瞳は酒好きで有名だった。九州生まれののせいなのかすごく酒に強かった。
笹川と瞳は駅近くのおでんやに入った。
おでんやは小さな店でカウンターしかなかった。客が10人程で満員になる。
女将のお母さんが今、笹川の施設に入っているということもありたまに来るようになった。まだ時間も早いのかまだお客さんもいなかった。
二人でカウンターに座ると女将がやってきた。
「いらっしゃい。2人で来る久しぶりなんじゃないの。あ、クリスマスだからかい?」
クリスマスということばに一瞬ドキッとした。施設では季節感を出すため飾り付けをしているが、そうだ、世間一般でも今日はクリスマスだったんだ。
「いや、そういうわけじゃないけどね。たまたま帰りが一緒になって女将の顔でも見ようと思って」
笹川は苦笑いをした。
「私がお役に立つならいつでも使ってくださいな」
女将はニヤリとした。
笹川は的等におでんを見繕って出してくれと注文し、それとホッピーでささやかなクリスマスを瞳と乾杯をした。
ホッピーはこの店に初めて来た日に女将に教えてもらった飲み物で、この店に来る度に頼むようになった。
笹川と瞳はささやかなクリスマスを乾杯した。
「最近、仕事はどう?困ったこととかない?」
笹川は聞いた。