娘の香織が嫌悪感丸出しの顔をしている。
「なんだ、聞かれて不味い事でもあるのか?」
『三者面談』と書かれたプリントを見ながら、父親の威厳を示すかのように低い声を出して聞く。
「別に。」
香織は席を立ち、逃げるように立ち去ってしまった。反抗期なのだろう、いちいち怒る事はしない。誰もが通る道なのだ。
「私、行こうか?」
夕飯の片付けが終わった妻の和美が声をかけてくる。
「何で?」
「・・・。」
和美は少し困った顔をしている。
「ただの反抗期だろ。」
「・・・。」
何かを言いそうな感じがするのだが、躊躇している。
「なんだ、何か他にあるのか?」
「怒らないで聞いて欲しいんだけど。」
「香織が何かしたのか?」
「違うの。」
「じゃあ何?」
「あのね、あなたの体の事なんだけどね。」
「体?」
自分の体に何か問題があるのだろうか。会社の健康診断では血糖値と血圧が高い位で再検査するほど問題ではなかった。和美の勿体ぶった物の言い方に少しイライラした。
「何だ、ハッキリ言ってくれ。」
「あのね、・・・香織はあなたの口臭がまず嫌なの。」
「は?口臭?」
「そう。」
手のひらを口に当てて息を吐く。その臭いを嗅いでも臭いのかどうか分からない。
「臭いのか?」
「だいぶ。」
「いつから?」
「だいぶ前から。」
指摘されると息をするのがためらわれる。だいぶ前だとすると会社でも臭い息を振り撒いていた事になる。かなり恥ずかしい。そんな事も知らずにああだこうだと部下に話しかけたりしていたのだ。
「言ってくれよ。」
「だってデリケートな部分でしょ。そのうち治るかと思ったから。」
「どれくらいから匂う?」
「ここから。」