和美がいるのは2メートル位離れた所だろうか。そこまでとは思ってはいなかった。かなりショックだ。
「ちょっと待て。さっき“まず”って言ったな。口臭以外に何かあるのか。」
「あと、最近太り過ぎ。」
「え、」
うすうす感じていた事を言われた。確かに椅子に座ってる今もお腹のお肉が腰にはみ出して乗っている。
「香織はたぶん恥ずかしいんだと思う。」
ただでさえ多感な時期なのに、太った口臭い父親が学校に来たら恥ずかしいに決まってる。逆であったら自分だって嫌だ。
「お前も、嫌だよな?」
「まあ、そうね。」
苦笑しながら和美が答える。
そうか、俺は口臭いデブのおじさんなのだ・・・。突然現実を突きつけられた気分だ。今年で50歳を迎える。自分では良い意味で年齢の“渋み”が出ているのではないかとちょっと思っていた。しかしマイナスの“渋み”が出ていた。
寝る前でなんの意味もなかったが、その日は歯を磨いた後、何度も口臭をチェックしてしまった。
「ちょっとな。」
会社の同僚の木島に口臭の事を聞いたら遠慮気味に答えた。今日は自分でも気になりすぎてマスクをしている。
「言ってくれよ。」
「無理だよ、気を使うに決まってるだろ。」
和美と同じ事を言う。
「あと、俺太ってるかな。」
「ああ、それは言える。太った。」
平然と木島は答える。やはり他人に言われるのは堪える。
そこから昨日の娘の事を話した。
「まあ、当然と言えば当然かな。」
「三者面談行かない方がいいかな?」
「いつだっけ?」
「1か月後。」
「じゃあ口臭治して痩せろよ。」
木島は真っ当な事を指摘した。なんとなく面倒になりそうなので、根本の問題から目を背けていた。やはりそれが一番いいのかもしれない。自分のお腹をさする。ポッコリ出ていた。
かなり面倒臭いが、本気でやらないと本気で娘と嫌われて、会社でも「口が臭い太ったおじさん」のレッテルを張られてしまう。もしかしたら、もう言われてるかもしれない。想像するだけでもショックすぎる。