素敵だな。聖なる夜に好きな⼈に捧げる⾔葉。
そう思った時、⾃分でもびっくりするほど⾃然に⻫⽊くんの顔が浮かんだ。そして、⼼臓がばくばくと⾼鳴ったことがはっきりとわかった。隣に座って⼀緒にテレビを⾒ていた⽗に、私の⼼臓の⾳が聞こえてしまうんじゃないかと⼀瞬不安になったけれど、幸い⽗には気付かれていないようだった。
⻫⽊くんとは五年⽣の時に同じクラスになった。そして、理科の実験で同じグループになった時に初めて会話をした。会話といっても⼤した内容ではなく、私の顕微鏡の使い⽅に、⻫⽊くんが「そうじゃないよ」とか「こうやるんだよ」とか⾔って、私はただ彼の忠告に頷いているというだけのものだった。
⻫⽊くんがあれこれと操作した顕微鏡を覗き込むと、そこにはいつも⾒たことのない世界が広がっていた。⻩⾦⾊に輝くタンポポのめしべやおしべ、⼒強く枝分かれしたアジサイの葉の葉脈、宝⽯みたいに透き通ったメダカの卵。そのどれもが神秘的に⾒えた。そして彼はいつも得意げな顔で「ね、すごいだろ」と、私に⾔うのだった。
⾃分の気持ちにはっきりと気が付いたのは夏季合宿の時だった。合宿では、私はまた⻫⽊くんと同じグループになり、⼣⽅にはみんなで⼀緒にカレーを作った。男⼦が薪に⽕を起こし、⼥⼦が野菜を刻み、それをまた男⼦が次々と鍋の中に放り込む。⻫⽊くんは⾸にかけたタオルで時々汗を拭いながら慎重に鍋をかき混ぜ、出来上がったカレーをみんなによそってくれた。私が嫌いなにんじんを紙⽫の隅に残していると、「俺がもらうよ」と⾔って⻫⽊くんは全部⾷べてくれた。
その姿がなんだか格好良く⾒えた。
私は成⼈になった⻫⽊くんに⼿紙を書くことにした。
今の⻫⽊くんにラブレターを書くことなんて到底できないけれど、未来の彼にだったらなんだか書けるような気がした。恥ずかしさも照れくささも、時間が全部解決してくれるような気がした。それに、⼤⼈になった⻫⽊くんになら、もしフラれたとしても「これは過去の気持ちだよ」と⾔って、うまく取り繕えるような気がした。
私は⾃分の部屋に戻って新しい便箋を取り出し、書いては消して、消しては書いて、未来の⻫⽊くんに宛てた⼿紙をなんとか完成させた。けれど、夜遅くまで書いていたせいで、⼿紙を読み返しているうちにいつの間にかパタリと眠り込んでしまった。
案の定、翌朝寝坊をした。⺟の声で⾶び起き、急いで学校に⾏く⽀度をした。枕元には昨夜⽗が忍ばせてくれたであろうクリスマスプレゼントが置かれてあったけれど、開けている暇もなく部屋を⾶び出した。が、⼀度部屋を出た後、書き上げた⼿紙を忘れていることに気付き、慌てて部屋に戻って⼿紙をポケットに突っ込んだ。そして、⾷パンを掻き込み⽞関を出ようとした時、あることに気が付いた。
⼿紙を⼊れる封筒を⽤意してなかったのだ。
⼿紙を裸のまま持っていけば、タイムカプセルに⼊れる前にクラスの誰かに読まれてしまうかも知れない。そうなったらみんな⼤騒ぎするだろう。