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『いつか指先で光る』森な子

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「君は良い子だね」
「え……」
「そのまま大きく、健やかに育ってね。まゆさんとの約束」
 まゆさんはそう言って、今度はいつも通り笑った。
 四つしか年は違わないのに、どうしてこんなに遠く思えるのだろう。従妹にまゆさんと同じ二十一歳のお姉さんがいるが、全然違って見える。まゆさんはどんな人生を歩んできたのだろう。どんなものを見て、どんなものを聞いてきたらあんな風に寂しさがぎゅっと一つに固められたような表情が浮かぶようになるのだろう。
 その日、俺はなんだか寝付けなくて、物音をたてないように静かに家を出て夜の街を散歩した。昼間とはうってかわってよそよそしい雰囲気の街並み。まゆさんが無邪気に手をのばした夜空。
 しばらく歩くと飲み屋街が見えてきた。普段の自分ならとっくに眠っている時間に、働いている人がいる。あるいは、お酒を飲んで笑っている人がいる。なんだかいいな、そういうの。俺は、暖簾から漏れる店の灯りをぼんやり眺めながらそう思った。
 しばらくぼんやりしていると、聞きなれた声が一軒の居酒屋から聞こえてきた。まさか、と思いつつそっと覗いてみると、そこにはエプロン姿のまゆさんがいた。気立ての良い笑顔を浮かべて、お客さんに料理を出したり、時には何か調理をする素振を見せている。
 さっき、一緒に家まで帰ったのに、なぜ?こんな遅い時間に?
 ぽかんとして見つめていると、不意に店の中にいるまゆさんと目が合った。彼女は心底驚いたように目を見開いた後、慌てて中から出てきて「なにしてんの、こんな時間に!」と叱るような口調で俺に言った。
「あ……眠れなくて」
「眠れなくて、って……もう、不良じゃん!」
 まゆさんは安心したように笑った。夜中に出歩く、ということに、ほかになにか、悪い理由を知っているようだった。
「帰りたくないの?」
 心配するような優しい声色でそう言われて、帰りたくない?とまゆさんの言葉を胸の中でなぞった。特にそんなことはない、と思う。けれど思考とは反対に俺はこくん、と一度頷いていた。まゆさんは「そっか、わかるよ!」と笑って、俺の腕を引いて店の中に引っ張った。
「おばさん、この子、私の弟なんですけど、遊びにきたみたいで。ちょっと隅においておいてもいいですか?」
「あら!まゆちゃん、弟いたの!」
「なんだあ?似てねえなあ!」
「弟は姉ちゃんに似ず、おとなしそうだなあ」
 店の中が笑い声に包まれて、俺はなんだか萎縮してしまった。けれどみんな、すぐに俺から興味がなくなったように自分たちの世界に戻ってゆく。「ゆっくりしてね。何か食べる?」とお店のおばさんに聞かれて、「あ、いえ……大丈夫です」と小さく答えた。
 お店の中はごちゃごちゃしていて、けれど妙に落ち着きがあって、優しいかんじがした。きょろきょろと辺りを見回す俺に、まゆさんが笑いながら「ほれ、お味噌汁」と温かい器を差し出した。いつの間にかエプロンを脱いでいる。
「あ……ありがとうございます。お仕事、終わりなんですか?」

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