結婚式の受付がきっかけとなり、後日麻美が「受付のふたりにお礼がしたい」という連絡が来た。そうして百合子と光一、そして麻美夫婦で食事をする場が設けられた。その時に百合子と光一は連絡先を交換し、ほどなくして付き合うようになった。ふたりで過ごす時間は居心地が良くて、この先も一緒にいたいと付き合ってすぐに感じるようになった。そうして、川が流れていくように、自然と「結婚して一緒に暮らそう」という話に進んでいった。
「ほんと、うちの夫婦が恋のキューピッドみたいなものじゃない。ユリの花嫁姿、綺麗だろうなー。もうさ、両親に挨拶したの?」麻子はかぶりついた焼き鳥の串をマイクのように百合子に向けた。
「光一くんのお家にはね、もう挨拶に行ったんだけど。……問題はうちよ。来週の日曜日に光一くんが家に来ることになってるんだよ」百合子はふうっとため息をついた。「なんか、心配なんだよね」
「えー、大丈夫だって。ユリのお父さん、男手ひとつでここまでユリを育てたからって溺愛してるけどさ。でも、物分かりはいいじゃん。ほら? 高校の時にさ、私が家出してユリんちに行った時も私の話聞いてくれたしさあ。光一は麻美の知り合いだって言えばなーんにも文句言わないよ」ほろ酔い加減の麻美はそう言ってけらけらと笑い始めた。百合子は「うーん、そうだといいんだけどね」とひとりごちて、ジョッキに口をつけた。
「ずいぶん早く着いたんだね」待ち合わせ場所まで小走りで来たせいか、百合子の息はすこしあがっていた。
「そりゃそうだよ。ぎりぎりだと、電車が止まったなんてことになったら身動き取れないし」
駅前の喫茶店にいます、と光一から十時前に連絡が来た。あまり待たせるのもいけないだろうと、父にも促され百合子は慌てて家を出てきたのだ。もちろん光一が約束の時間よりも早く駅に来るだろうとは百合子は予想していたけれど、それにしても早い。百合子の実家までは歩いて二十分程度の距離にある。時間通りに光一が来ればタクシーでいこうと百合子は考えていたけれど、ゆっくりと歩いて行くことにした。
「あー、緊張するな。俺の今日の服装、おかしくない? 大丈夫かな?」紺色のジャケットに、水色のシャツ。グレーのパンツを合わせたシンプルな服装のどこに問題があるのかと、百合子は思わず笑ってしまった。それでも光一は、そわそわと落ち着かない様子だ。光一の手にはお土産のおせんべいと、小さな花束がぶら下がっている。「どっちか持つよ」と、百合子が言うと「これは百合子に持ってもらっちゃダメなやつだから」と笑いながらもきっぱりと言った。
「光一くんは真面目だよねー。それよりもさ」百合子は一旦そこで言葉を区切り、光一の前に立つ。
「お父さん、絶対にお酒を一緒に飲もうって誘ってくるから、ちゃんと断ってよ? 光一くんお酒弱いんだから。ウイスキーボンボンすら食べられないじゃん」
「でもさ、そんなの断りにくいよなあ……。お酒好きのお父さんに、よし、祝いの酒だ、一緒に飲もうって言われてんのに。僕お酒飲めませんなんて。情けないやつだって嫌われそうじゃない?」
「でもさあ、その場の雰囲気で飲んじゃうと、あとで大変になるんじゃないの? 具合悪くなったりとか。その方が、困ったやつだって思うかもな。うちのお父さんは」