「昔は、一緒にやってたのにさ。武道館とか・・。はぁ・・。俺何やってんの?って。もうさ、ほんと中途半端なんだよ俺。何をやっても中途半端」
焦点の定まらない目で、ゆらゆら上半身を揺らしながら、己を罵る健一。そっか。健一は健一で色々抱えてるんだ。
「いいじゃん中途半端で。中途半端ってことは、ことを進めてる途中って事でしょ。何もしてないよりマシじゃん」
言ってる自分もよく意味が分からない。励ますつもりで言ったわけでもない。
でも。
健一は、顔をくしゃくしゃにして泣きだした。大粒の涙がぽろぽろとこぼれる。かと思ったら、健一はいきなり酔ってるとは思えないほどの速さで立ち上がり、金網に手をかけると、大量にゲロを吐いた。私は、その健一の様子がとても面白くて
「おめー泣きながら吐いてんじゃねーよ!」
と大声で叫び、ゲラゲラと笑った。こういうのいつぶりだろう。そういえば、初めて健一と出会った打ち上げの日も、健一は泣いていた気がする。レインボーのメンバーと健一たちのバンドのメンバーが、将来の事で言い争いになって、健一が、絶対レインボーより先に売れる!と言いながら、泣いていた。
「健一、変わんねーな。でも、いいじゃん」
きっと健一には聞こえていないだろう。
まぁ、私も私で大して変わってないのかもしれないけど。そんなことを考えながら、一人で笑う。
あ!思い出した!
私は、高橋と付き合ってる時、ホッピーの話をした。笹塚にあった小さな居酒屋で、高橋と私がビールもサワーも飽きたという話をして、私は高橋にホッピーを飲ませようとした。高橋がホッピーなんておっさん臭い!と嫌がるから、ジャンケンで負けた方が飲むことにして、私はジャンケンに勝った。そこまでは覚えている。その後、高橋がホッピーを飲んだかどうかまでは・・記憶にない。
「いやぁ、ホッピーやばい。高橋さんすげぇよ。そして、ホッピーやばい」
健一はゲロの傍にしゃがみ込み唾を吐きながらぶつぶつ言っている。
「ねぇ、今日のホッピーの店、名前なんだったっけ?」
私は、健一に聞く。
「えっとね・・あの店の名前はねぇ・・ホッピーの店」
健一も覚えてない。そりゃそうか。
「また、ホッピーの店行こうね」
「行く。絶対行く。そして、今度は吐かないように飲む」
結局私は、健一に今日初めてホッピーを飲んだことを言えなかった。
10月の風は服の隙間をかいくぐり、火照った体を急激に冷やしていく。
「さ、風邪ひく前に帰ろ!」
私は、ふらつく足で立ち上がり、健一を引き起こす。
きっと明日は二日酔いだな。あぁ、明日、日曜日で良かった。