「スイカ食べるぞー!」
「イルカだよ!イルカ!」
海斗は、一目散に走り出した。
あれから長い年月が流れ、やっと、じいちゃんとイルカを見ることができた。
「ほらな、本当にいただろ」と、じいちゃんが誇らしげに言うので、僕は「信じてたよ」と、疑っていたことを心の中で詫びながら返した。
イルカは少しずつ遠ざかり、やがて見えなくなった。
「よし、海斗!スイカ食べるか、よく冷えてるぞ!」
「うん」
じいちゃんは、海斗の手を握り、力強く引っ張った。
「大じいちゃんの手、おっきくてゴツゴツしてるね」
「漁に出て鍛えてるからな」
じいちゃんは力こぶを作って見せた。
まさか、生死の境を彷徨ったじいちゃんと、再びこの海にやって来るとは思わなかった。
僕たちは縁側に並んで座り、スイカの種を飛ばして競った。皆んなが負けず嫌いで、何度も何度も繰り返し競った。
「じいちゃん」
「なんだ」
「明日は久しぶりに浜でホッピー飲もうか」
「ああ、いいな」
「至福の時ってやつだね」
「じゃあ、よく冷やしとかないとな」
じいちゃんは勢いよく立ち上がり、台所へと向かう。
そよ風に揺らされた風鈴が鳴った。
僕はじいちゃんの後ろ姿に目をやった。
その背中は、あの頃と変わらない。