悪意というものをこんなにもあからさまにされた経験が無くてどうしたらよいかわからない。だから鈍感力でスルーしてきたが、さすがに限界だ。
それに何より堪えたのは周囲があの理不尽な悪意に従ったことだった。
・・・ああ、いじめってこういう構図なのか。
負のスパイラルは私を引きずり込んで離さない。
「どうした?」
真っ暗闇にうずくまってしゃくりあげている自分を深夜帰宅した夫が見つけて目を丸くした。
忙しい夫には仕事のことは相談するが、職場のことは何も言わないでいた。
だから夫は私のこの体たらくにかなり驚いたようだった。
「自分の尊厳、ってほどでもないけどさ、自分のために、怒りを表現しないといけない場面もあるんじゃないの?だから気にすんなよ。」
「でも言っちゃいけないこと言った。
あからさまにしてはいけない対立を作った。キャットファイトだなんて、最悪だ。
・・・後から来る人が苦々しく思う、嫌な塊を作った。」
「お前だけが悪い訳じゃないでしょ。」
「・・・もうあそこで働き続けられる気がしない。すっかり心が折れた。疲れた。ダメだ。ダメだあ・・。
「じゃあさ、一回リセットすれば?辞めちゃえ、そんなとこ。」
「・・・でも、15年頑張ったんだよお・・・。仕事、辞めたくないよ。」
「別のところ探せばいいじゃん。」
「子持ちなんて雇ってくれるところない。」
「ほんとうに無いかどうかなんてわかんないでしょ。
・・・おまえさ、自分の言ったこと忘れてるでしょ。
俺がすっごい仕事で悩んできたとき、そう言ってくれたんだぜ。
だから今、頑張れているんだけど。俺は。」
「そうだっけ・・。」
「そうです。」
「・・・あのさ、求職中に働くのがもう嫌になって専業主婦になりたい、って言ってもいい?」
「いいよ。なりたいの?」
「わかんない。でも今までのテンションが切れちゃって、また同じにできなくなったらって、それが怖い。」
「なるほど。・・・でもさ、お前ならまたエネルギー溜まったら間違いなく動き出すと思うけどねえ。」
「そうかなあ・・・。」
「そうだろなあ。」
「そうなのかな。」
「そうだろう?」
マグまのようにため込んできた感情を一気に爆発させた後の虚脱感は大きくて、自分が辞めることが与える影響については全く無関心で、平板な心のまま退職までの時間を過ごした。
しばらく休んで会社から離れてからいろんな人に会って話をするうちに元気がでて、全く新しい分野の会社でポジションをもらえた。
まったくもって案ずるより云々であった。
「久住さんの歓迎会ですけど、好きなものとか、今これが食べたい気分!とかありますか?」