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『夢で逢いましょう』サクラギコウ

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 僕のジイちゃんはエロい。今年83歳になるがキャバクラ通いが止まらない。それも水曜日限定だ。母は「夜道で転ばないか」と心配している。父は「他に楽しみがないんだから、放っておけ」と言っている。でも僕だけはジイちゃんの本当の姿を知っている。ジイちゃんにはお目当てのホステスがいて、尻を触りまくっているのだ。
 バアちゃんが死んでから、ジイちゃんの落ち込みは半端なかった。それが1年ほど前からキャバクラ通いを始めるようになって元気になった。元のジイちゃんに戻ったが、それはそれで心配なのだ。
 今日の天気予報は夜半から雪になると言っている。ジイちゃんは足が少し悪い。雪道で転ばないかと心配する母が、僕に後を付けるようにと言う。今日は寒い。だから反抗した。だが天気予報のおねえさんは「水分を多く含んだ雪になる」と言い「非常に滑りやすいので注意してください」と強調した。僕の横で母が「ね?」と睨んだ。
 ジイちゃんのキャバクラ通いはいつも夕方の6時から始まる。家を6時ちょうどに出る。ゆっくりゆっくり歩いていくと6時半には店に着くのだという。帰りも決まっている。9時きっかりには帰ってくる。店を8時半には出るからだ。母は簡単にいうが、僕が店前で待っていたらジイちゃんはきっと怒る。なにしろジイちゃんはホステスの尻を触りまくってきた後なのだから、孫に迎えに来てもらうなんて嫌がるに決まっている。
 テレビの天気予報のおねえさんが「転ばないよう、ほんとうに気を付けて下さいね!」とテレビ的笑顔で手を振った。余計なことを言う。  
 小遣いをアップしてもらう約束で、僕はしぶしぶ母の提案を受け入れた。

 夕方6時になった。ジイちゃんが部屋から出てきた。ジイちゃんはおしゃれだ。今日もキメている。母が「今日は雪になるそうですから、傘持って行って下さいね」とわざとらしく言う。ジイちゃんは「そうだな」と返事をしてお気に入りの傘を持って出かけて行った。
 ジイちゃんのコートのポケットはいつも不自然に膨れている。そこにはホッピーが入っているのを僕は知っている。出かける前にホッピーをひと瓶ポケットに入れるのが決まりだ。キャバクラにはホッピーは置いてないのか?
 僕は見つからないように後を付けた。以前「スパイになるためのハンドブック」という本を図書館で読んだことがある。シャレで書かれた本かと思ったら、元イスラエル軍秘密諜報部出身のトップエージェントが書いた、スパイになるための手引書だった。その本で「尾行」は「動く目標の観察」と書かれていた。僕の動く目標はジイちゃんということになる。ジイちゃんは歩き方がゆっくりで、後ろを振り向くことはない。だから観察は楽だ。ジイちゃんの歩く速度に合わせて少し後ろを歩けばよかった。

 ジイちゃんは駅近くのカフェに入っていった。キャバクラではなかった。この店は珈琲をウリにした昔風のカフェだ。中学生には価格が高いので一度も入ったことはない。店前のドアに「本日休業日」の札がかかっている。この辺は水曜日が休みの店が多い。ジイちゃんはキャバクラって言っていたけど、本当は仲間と珈琲でも飲んでたのか? 急にバカバカしくなった。
 帰ろうとするとドアの横にある小さな張り紙に気づいた。「夢」と書かれた手書きの紙が貼ってある。「これ?」ってことは、水曜日以外はカフェとして営業し、水曜日は「キャバクラ夢」になるのか。

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