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『青春のほろにがホッピー』頼富雅博

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 生まれて初めて口にしたお酒。それはホッピーでした。時はまだ昭和50年代。私は第一志望の大学に落ちて、先の見えない浪人生でした。閉塞感のたまる生活を何とか打ち破りたくて、半ば発作的に四国の片田舎を飛び出し、夜行列車で一路東京を目指した。初めての一人旅。親には告げて出てきたので家出ではないが、ちょっとした冒険めいた高揚が胸にはあった。

 もっとも東京に出て何をするのか、したいのかは自分の中でもわからない。ただ飛び出したかった。それだけだった。幸い、到着した東京駅では高校時代の親友のIが迎えに来てくれていた。役者の卵でバイトをしながら演劇の専門学校に通っていた。四国ではついぞ見られない人の波をかき分けながら、Iにくっついて中央線に乗り込んだ。田舎者の私には乗客の着ている服がどれもおしゃれに映った。

 やがて、電車は西荻窪の駅に着いた。そこから歩いて10分ほどのところにIの住むアパートがあった。先程までの東京駅のモダンな光景とは打って変わり、彼のアパートはくすんだ色の木造アパートで、部屋に向かう階段は今にも崩れそうで、歩くたびにギシギシと悲鳴を上げる。私はIの好意に甘えて、にわか居候となった。Iの話ではこの西荻窪に限らず、中央線の沿線は個性的な町が多く、アーティストや文化人が多く住むということだった。田舎者の私にはすべての光景が新鮮で眩しかった。

 次の日からはIがバイトや学校に出かけている間は彼の自転車を借り、中央線のあちこちを気ままに散策した。西荻窪、高円寺、阿佐ヶ谷。調子のよい時には遠く新宿あたりまで自転車をこぎ続けた。Iの言うように中央線の町々はどこも個性的でアングラな空気の漂う店が軒を連ねていた。加えて歩いている人のファッションもサイケデリックで斬新なものが多いことに気づいた。絶対に四国の町では見る事のできないファッション、そして人々だった。

 私にとって東京生活の指南役はもちろん親友Iである。彼は忙しい時間を割いてあちらこちらと私を案内してくれる。今も覚えているのは新宿の三番館で映画を見たこと。確かATGの作品で「ヒポクラテスたち」という映画だった。内容もさることながら、主演の伊藤蘭が清楚で可愛かったのを強烈に覚えている。その帰り道、立ち寄ったのが西荻窪の駅の近くにある小さなスタンドバーだった。
 そこはIが演劇仲間とよく集まる店で、佐藤蛾次郎に似たアフロのマスターが一人で切り盛りする店だった。10人も入れば満杯になるような店だったが、良い意味で変わった店だった。飲み物はとにかくこれで儲かるのかと思うぐらい安い。出てくる料理も一般の店ではまずお目にかかれないものが並んでいた。揚げたパンの耳にチョコレートをかけたもの、缶詰の直火焼き。チキンラーメンというのもあって、100円をマスターに渡すと袋のままのラーメンをくれ、そのまま客が厨房に入り作るというものだった。おまけに50円足せば、勝手に店の冷蔵庫を開けて中のものを好きなだけ使ってよいというありがたいルールまであった。私もこの店の雰囲気が好きでいつの間にか一人でふらりと訪ねるようになった。

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