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国際短編映画祭につながる 短編小説「公募」「創作」プロジェクト 奇想天外 BOOK SHORTS

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『ホッピーの花』小野みふ

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 広告代理店に入社して初めて任されたプレゼンがボツになった日の夜、高橋係長に連れられてやってきた有楽町ガード下。
 梅雨が明けたばかりのまだ少し湿った空気に、食欲をそそる焼き鳥の匂いが交じる。木曜夜八時過ぎ。すでにどの店も、仕事帰りのサラリーマンたちでにぎわっている。
立ち寄ってみたいような、まだ仲間入りしたくないような、ちょっと躊躇していた場所。楽しそうな声を耳にしながら、これまで会社帰りに素通りしていた。
「たまにはこういうところで飲むのも、味わいがあっていいぞ。あせくせ働いたあとの一杯にもってこいだ」
 高橋係長がさっと簡易テーブルに腰を下ろして、おしぼりで顔を拭く。決して座り心地がいいとは言い難いパイプ椅子に座って、スバルはなんだかそわそわ落ち着かない。
「ほら、乾杯しようぜ」
 高橋係長が、見たことのない茶色い瓶をひょいと掲げた。
「それ、何ですか? ビールですか?」
「いいや、ホッピーさ」
「ホッピー?」
「そう。まず一杯飲んでみろよ」
 勧められるがままに、一口ぐいっと飲んでみる。すっきりした味わいで、結構いける。
「どうだ? うまいだろう? ビールがまだまだ高価だった時代に、サラリーマンたちの間で広く飲まれていたらしいぞ。俺も入社したてのころ飲んで、えらく感動したよ。それ以来すっかりはまっちゃってね。そのままでももちろんうまいけど、焼酎で割って飲むのもおすすめなんだ」
 係長が嬉しそうに丸い顔を綻ばせる。スバルはおもむろにレトロな瓶を手に取ってみた。
どこか懐かしくて、見覚えがある白文字のラベル。
(あっ、ひょっとして……)
 実家のリビングに飾られた花瓶にそっくりだ。庭の花がいつも数輪活けられていたっけ。
 しんみり物思いにふけっていたら、ひどく落ち込んでいると勘違いされてしまったらしい。高橋係長が意気揚々と話しかけてくる。
「まあ、そんな気を落とすなって。チャンスはこれからいくらでもあるんだからさ。俺たちがしっかりフォローしてやるから、心配するな」
 かなり時間をかけて下調べをして、準備万端で臨んだプレゼン。気合十分なうえ、自信もあった。

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