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『ドソラソ ドソラソ ミミレレド』或頁生

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10

 2年後の三回忌からさらに両手で数える季節を数える中、山口家と雄一が直接連絡を取り合うことは、あくまで自然な流れとして一切なかった。
「一番若い雄ちゃんも還暦が近い、お年寄りばかりの私たちでしょ。万一の時に助け合えるように、連絡先を交換しておきましょうよ」
 美子おねえの提案は、母である清美を安心させるパフォーマンスの意味も強かったのだろう。
 常生も美子も酷使が一目瞭然のガラケーユーザーで、メールの送受信も怪しいのは、決して雄一を拒否する仄めかしではなく、本当にそんなライフスタイルらしかtった。

 結局雄一のスマホには、ふたりの電話番号だけが登録されるも、こちらから慣らす要件もなければ、着信を確かめることもなく、それぞれの毎日が過ぎていた。
 次の再会はおそらく、雄一の母の由紀子もしくは山口清美のいずれかが、天へと旅立つ時だろうし、雄一もそれで構わないと思っている。
 順番間違いは悲し過ぎるので、それぞれが心身健康で天寿を全うする、人としての終活の時を、精一杯生きなくてはと、この日を境に、今度こそ真剣に健康を考え始めた雄一。
 腹七分目の食事と、ラジオ体操に腕立て腹筋ストレッチ、そして近所のウォーキングと、専らお金のかからない努力プラス、日々の楽しみの晩酌にも大きな変化が。

 
「さあ今日も日没から風呂上りのこれ。我が終活のガソリンタイムっ!」
 ゴキゲンでホッピーを取り出そうと、妻とふたり暮らしの小さな冷蔵庫内を捜してみても、どこにもその姿が見当たらず。
 頸を捻っていると、背中から悪魔の最終宣告の声が突き刺さった。
「ああ、買い溜めした肉や野菜が入り切らなかったから、取り出してあっちの床の隅に並べてあるから」
 見れば未だ衰えの兆しを見せぬ、晩夏の西日が茶褐色のガラス瓶越し、喉を鳴らして楽しむ予定の中身をキラキラと照らしだしていた。
「お、オマエなあ・・・」

 仕方ないにせよ、何よりガマンできない。
 ここはひとつ、昭和の白黒テレビの中の悪役プロレスラーよろしく、栓抜きをポケットに忍ばせて、片道十数分の酒屋まで、夕涼みを兼ねて買いに行こうか。
 信ちゃんおじさんが当時「近所の目があるからこれだけは絶対ダメ!」と清美おばさんに強く禁じられていたらしい、ホッピーの歩き飲みってのも、何やら楽しそうだし。

 君の願いは 有難やァ

 突然頭に浮かんだ、信ちゃんおじさんのどうやら唯一の持ちネタだったらしい、謡いのエンディングの一節。
 ならばとそれっぽく唸ってやろうかと、大きく息を吸い込んだその時、

「ドドソソ ララソ ファファミミ レレド」

 幼稚園の七夕発表会でお披露目したのだろうか、吹いて音を出す小型鍵盤楽器の上手な演奏が、窓の下をリズミカルに通り過ぎていった。

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