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『隔世遺伝』吉倉妙

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 母が四歳の時に、この世を去ったおじいちゃんは温泉旅館で働いていて、夏の間は山小屋へ食料を運んだり、山の道案内をしたりしていたそうです。奥飛騨は北アルプス連峰の登山口もあり、根っからの山男だったおじいちゃんは山の事故で帰らぬ人となりました。
雪山で遭難した人を救助しに行って起こった事故でした。
「早くに旦那さんをなくして、おばあちゃんは苦労したけど、おばあちゃんには優しかったおじいちゃんとの思い出しかないから、おばあちゃんは今もおじいちゃんを恋い慕っている」と、母が口にしたことがありましたが、夏休み、あさ子さんと1ヶ月過ごした私は、あさ子さんとおじいちゃんの初々しいエピソードを一つ知りました。
 それは、お盆直前の土曜日のこと。
 一番近い(といっても、車で30分はかかる)リカーショップから荷物が届きました。
 美容院の仕事を終えて帰ってきたあさ子さんが「届いた、届いた!」とはしゃぎながら、荷物を開けると、現れたのは、1ダースプラス2本のホッピーでした。
その内の1本を冷蔵庫の中に入れるあさ子さんの、上機嫌な後ろ姿。
「あさ子さんのところにホッピーがあるのって、なんか、ちょっと意外な感じがする」
「昔、おじいちゃんと二人でよくホッピーで晩酌をしていたから、おじいちゃんにはホッピーをお供えしたくてねぇ」
「ホッピーで晩酌?」
「二人ともお酒が弱いから、晩酌ってものをしたことがなかったんだけれど、ある日、おじいちゃんがホッピーを買ってきてさ……」
それから時々二人で晩酌をするようになったのだそうです。
 晩酌は、二人にとって憧れだったのだろうと、ひしひしと伝わってきました。
 近所にあった酒屋さんが店を閉じてからは、お盆の頃に、1年分のホッピーをまとめ買いして、おじいちゃんの月命日や誕生日にもお供えを欠かさないというあさ子さん。
 仏壇の前で正座したあさ子さんの横には、ホッピーと2つのグラスと栓抜きがのった丸いトレイ。そのトレイの上で栓を抜き、2つのグラスにホッピーを注ぎ、1つをお仏壇に供えてから、あさ子さんはゆっくりと手を合わせます。
 それから、トレイの上のグラスを手にして空で乾杯をしてから、あさ子さんはホッピーをコクコクコク、コクコクコク。
 回想話ではなく、初めて垣間見たおじいちゃんとあさ子さんの仲むつまじさ。
――そしてそれはまた、二人の晩酌の時間のように見えました。

 その二日後、大阪へ出張中の父親を残して帰省した母は、着いたとん、あさ子さんが冷蔵庫に用意していた缶ビールを一気に飲み干して、あさ子さんを呆れさせました。
 お酒の飲めない夫婦の子供であるというのに、どういうわけか母はお酒が強くて、突然変異だと母は断言していましたが、どうも、おじいちゃんの父親がお酒が強かったのではないかと、あさ子さんはクスリと小さく笑って言いました。
 大人になった私はというと、やっぱり、あさ子さんに似てお酒は弱かったです。
 あさ子さんとは違い、28歳にしてまだまだ結婚には至っていませんが、将来の結婚相手もお酒が弱かったら、ホッピーで晩酌をしたいなぁと思っています。

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