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『隔世遺伝』吉倉妙

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 隔世遺伝って、おばあちゃんと私のこと。
 私は、母よりもおばあちゃんに似ているし、「若い頃の祖母に生き写し」とまで言われる事がたびたびあったし、実際におばあちゃんの若かった頃の写真を見たとき、「ほんと、そっくりだぁ」ってびっくりしました。
 フィルムの写真は、ぶ厚くて重いアルバムに残されているから、いつでもみんなで古い記録を広げて見ることができるでしょ?
 私に似て(ううん、正確には私がおばあちゃんに似て)、几帳面なおばぁちゃんは、きちんとアルバムを整理していたから、私は、私の年齢と同じ頃のおばあちゃんの写真を見ることができました。今からもう10年も前、高校最後の夏休みに――。
 名古屋のうだるような暑さから逃げ出して、受験勉強という名目のもと、私はまるっと1ヶ月、大好きなおばあちゃんの家で過ごしました。
 飛騨高山からもっと山の方にある奥飛騨で、美容院を開いているおばあちゃんは、その時も今も現役で、年齢よりずっと若く見えて、お客さんや近所の人から、あさ子さんと呼ばれていて――。私も冗談半分で名前で呼んでみたら、おばあちゃんと呼ぶよりもしっくりきて、それ以来、おばあちゃんはあさ子さん。
 猫と子どもと美しいものが大好きな、お一人暮らしのスペシャリスト。
 父親の顔を覚えていない母を女手一つで育て上げ、母が名古屋で就職してからずっとの一人暮らし。一度だけ、ミウと名付けた真っ白い猫と同居していた時期があったけど、同居した猫は、後にも先にもこのミウ一匹だけ。おとなしくって、いつもあさ子さんについて回って、お店の看板猫だったミウ。
 ある朝、何度も振返りながら散歩に行ったきり戻ってこなかったと、あさ子さん、淡々と話すから、逆にその光景がくっきり私の瞼に浮かんで、私はとてもしんみりしました。
 私もいつか猫と暮らしたいけど、いつのまにかあさ子さんの所に住み着いたミウみたいに、私の所にも一匹の猫がやってくるんじゃないかと大きく期待しています。
 ひょっとしたら、そういう不思議な縁も、隔世遺伝するのではないかなぁ……という根拠のない期待なのですが――。
 花なら桔梗、色はえんじ色。宝石だったらアメジスト。私が無性に心惹かれていくものは、なぜかあさ子さんと同じで、こんな細部までも似ているのだから、この先、不思議な縁の隔世遺伝もあるに違いないという密かな思い込みです。
 例えば、あさ子さんの家で1ヶ月過ごした夏の、あの日の出来事。
「この指輪、貴子にあげるよ」
 お昼ごはんの後、洗い物をしようと立ち上がった私に、あさ子さんが左手の中指につけていた指輪を外しながらそう一言。クラシックな感じにカットされたハチミツ色のシトリンの美しさに一目ぼれしていた私は、内心びっくり仰天、慌てふためきました。
「そんな高そうな指輪、もらえないよ」
「そんな高くもないからあげるんだよ。おじいちゃんと東京へ遊びに行った時に、ふらっと入ったお店で買ってもらったくらいだから」
「それを聞いたら、ますますもらえないよ」
「身につけないと勿体ないから、たまにこうしてつけてみるけど、なんでだろうねぇ、急に貴子にあげたくなってね」
 口にしなくても、私がその指輪に一目ぼれしたことがあさ子さんにはお見通しで、それは以心伝心というより、説明のつかない不思議な縁のように思えました。

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