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『知らない』室市雅則


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 夜になって母親が帰って来たので、食事を催促すると怒鳴られた。
 内容としては『お父さんがこんな時に、何をしているんだ』というようなこと。
 そして、母親は晩飯に買って来たスーパーの握り寿司を柳田に投げつけ、無言で父の着替えを準備し、とっとと病院に戻ってしまった。
 柳田と床に散らばった寿司だけが家に残った。
 柳田は、何も事情を知らなかったのでムカついた。『ババア』と悪態を吐くと、腹が減っていることを思い出し、フローリングに散乱した寿司を拾い集めた。身厚のハマチ、やけに赤いマグロがパックの外に放り出され、いくらは粒ごとに無残に散っていた。
 いくらを一粒ずつ拾い集める。
 この一つ一つが命なんだななどと思い浮かべていると、先ほどの母の言葉が胸を抉った。
 一体、自分は何をしているのだろう、情けない。
 涙が出そうになりながら、いくらを頬張り噛み締めると塩気ととろみが口中に広がった。
 命の味。 
 仕事を探そうと決めた。
 いくらの粒くらいの大きさの『やる気』が芽を出した。

 翌日、帰宅した母に謝罪をし、職探しのための資金の捻出を依頼した。
 あっさりとそれを承諾してくれ、三万円を手に入れた。
 『ちょろいもんだ、これでしばらく遊べるか』という邪念が過ぎった。だが、喜ぶ母の顔を見て、それを恥じた。
 父の病状は大したことがなく、一週間もしたら帰って来られることが分かった。

 柳田はその足で早速、ハローワークに向かい求人情報を確認した。
 係員との会話が社会復帰の第一歩。他人と会話をするのは久しぶりで、しどろもどろになってしまった。
 居酒屋での経験から、飲食業はごめんだと事務職系を探そうと思ったが、職務内容を読んだだけで、自分にやれるかどうか不安に思ってしまった。
 かといって、飲食業の情報からはハードな日々を思い出され、息が詰まるだけであった。
 とりあえず、登録だけを済ませて帰宅をした。
 その途中、写真を撮ったことがある黒ぶちの野良猫がすり寄って来た。餌を持っていないことに勘付いたのか、すぐにどこかに行ってしまった。

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