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『宅配の気持ち』狩屋江美


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「そんなこと……」
 私のきれっぷりに母は、おどおどし、父は固まっている。
 私はテーブルを叩き、立ち上がった。2人の肩がびくんと上がる。
「私、遠藤亜紗見は誰がなんと言おうと、東京で立派な女優になります!」
 私はそう啖呵をきると、居間を出ようとした。
「お父さんは、反対だ」
 私の背後から、父の声と母の嘆息が聞こえた。しかし、私は立ち止まらなかった。
 きっと、これが大人への第一歩だから。

 東京での生活は、慣れる暇などないほど忙しかった。バイト、稽古、バイトの毎日。アパートには、寝に帰るだけ。それなのに東京に出てから頻繁に母から連絡がくる。私は、忙しさを理由に母からの電話にでず、メールも見て見ぬふりをした。ただ、月1回、送られてくる宅配だけは受け取った。受け取らないと、その宅配は実家に戻り、心配した両親が家族の誰かをこのアパートに来させるかもしれないからだ。片付けも出来ない程、忙しい現状を知らない家族がこの部屋を見たら、確実に発狂する。それだけは避けたかった。
 宅配で送られてくる段ボールの中には、毎回、東京でも買えるような日用品が入っていた。私は、毎月、腐る物がないか確認すると段ボールごと部屋の隅に押しやり、上へ上へと積み重ねていった。
 もうすぐ正団員になって初の舞台稽古が始まる。私は宅配の中身より、そのことで頭がいっぱいだった。期待でいっぱいだった。

 しかし、舞台稽古の初日にその期待はあっさり裏切られた。テレビでよく見る演出家がイスにふんぞり返り、ただ怒鳴り散らすだけの稽古場。朝から汚い言葉の連続。
「なんでそんなことも出来ないんだ!」
「お前、今まで何やってきたんだ?!このくそ演技のくそ野郎が!」
 正団員の舞台稽古とは、演出家が自分の鬱憤を演者にはらす為のものなのか?私の頭の中では、どうしてもこれが稽古だと認識できない。しかし、何を言われても演出家の要求に答えようと必死に同じ芝居を繰り返す演者を見ていると、これが稽古だと思いたい。なんて不思議な感覚。これがプロの世界なのか?わからない。そんな自問自答を繰り返していると、演出家がため息混じりに手を叩いた。
「もういい。次!次のシーン。はい、早くする」
 演出家がタバコに火をつけた。喉が命の舞台にタバコ?そう思っていると、スタッフが慌てて、窓を開けた。
「早くスタンバイしろよ!」

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