「じゃあ、お母さんもクッキー食べようっと」そういって、クッキーをひとつつまんで、お母さんは口のなかにぱくりと入れた。
「お母さんさ、あんまりおやつばっかり食べてると、ワンピース着られなくなっちゃうよ?」わたしは笑いながらお母さんに言うと、お母さんは「あっ、そうだった!」と笑いながら答えてくれた。
祐介くんの秘密を知ってしまったわたしは、翌日学校で顔を会わせるのがちょっと恥ずかしかった。
だけど、祐介くんの秘密を知っているのは、お母さんとわたしだけの秘密なのだ。バレないように気をつけなければ。お母さんが約束破りだって、またいじわるなことを言われてしまうかもしれない。ぼんやりと、そんなことを考えてながら下足箱で上履きに履き替えていると、ぽんと後ろから背中を叩かれた。誰だろう? と振り向くと、そこには祐介くんが立っていた。
「お、おはよう」
わたしは少し上ずった声をだしながら挨拶した。どんな顔をして祐介くんに挨拶していいのか咄嗟に思いつかなくて、うつむいたまま上履きだけをじっと見つめていた。
祐介くんは、少しだけ気まずそうに「おっす」といって靴を脱ぎはじめた。そして、わたしの顔を見ないようにしながら、小さな声で、こう言った。
「おまえのお母さんってさ、優しくて、いいな」
わたしは祐介くんの言葉にびっくりした。パッと顔をあげて、祐介くんを見たけれど、祐介くんは恥ずかしかったようで、こう続けた。
「ちょっとだけ、デブだけどな」