泉動物公園はヤギや羊など、動物と触れあえるのが特徴だ。モッシーは桃花が幼稚園の遠足で初めて行ったときから、子どものアイドル的存在だった。小学生の頃は週末のたびに訪れて、大きな甲羅に触っていたことを思い出す。
「絶対に見つける! モッシーは小さいときから知っているもの。私が見つける!」
長靴を履き、ロープを持った人たちが動物公園の周りで捜索活動を始めていた。
「先を越されてなるものか。絶対に五十万円をゲットする!」
桃花も長靴を履き、洗濯ひもを持って、付近の雑木林、原っぱ、裏山を探した。
探し始めて二日目の夕方。桃花のアパートから二百メートルほど離れた市道の脇に竹藪がある。もう何年も手入れがされずに荒れ放題。中に入ると足首まで竹の葉や落ち葉がたまっている。
どこかでゴソゴソと動く音がする。耳を澄まして音のする方へ行くと、倒木と倒木の間で何かが動いている。
「モッシーだ! モッシー、見つけた!」
倒木に挟まれたモッシーがいた。
勢いよくモッシーの甲羅に覆いかぶさる。桃花が乗っかっても、モッシーはのんびりと顔の近くに生えている下草を食べていた。
「一人でよくこんなところまで来られたね。すごい、すごい」
お腹に感じるモッシーの甲羅。懐かしい。何だろう、この気持ち……。
竹藪を夕暮れの風が吹き抜ける。さわさわと竹の葉の揺れる音に、汗がひいていく。気持ちいい。桃花はそのまま眠ってしまった。
夢を見た。
「見て、父さん、桃花、こんなこともできるんだよ。幼稚園の遠足で来たとき、モッシーと友だちになったんだ」
桃花はモッシーの背中を抱きかかえるように背中に乗っかって足をバタバタさせた。
「すごいな、桃花。モッシー、嬉しそうだ。笑っているぞ」
父さんがしゃがんでモッシーの顔を覗き込んでいる。桃花と目が合う。父さんの黒い瞳に桃花が映っている。
「桃花、父さんはもうすぐお星さまになるんだ。空の上で桃花のこと、ずっと見ているから。ずっと応援しているよ」
「お星さま?」
空を見上げる。
「お星さま、見えないよ」
父さんはじっと桃花を見つめながら言った。
「大丈夫、桃花には見えなくても、父さんは見ているんだ。いつだって桃花のこと」
「おうえんってなに?」
大きな手が桃花の頭にそっと乗った。
「フレーフレー、桃花」
「それがおうえん?」
父さんはゆっくりと頷いた。
「桃花も言ってごらん」