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『エアーお父さんの香り』矢鳴蘭々海


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 スピードを落として私がマキの斜め後ろにつき、両手を「前へならえ」すると同時にマキも姿勢を伸ばして両手を広げた。横から見ると二台の自転車が連なって大きな船体に見えているはずだ。先刻まで青かった空に薄い橙色が交じり始めて、一瞬、本当に海の上にいる気持ちがした。
「ジャイ子ー!じゃなくてジャックー!かっこいいー!」
「マキかわいいー!」
 部員のヤジでマキはにんまりとピースサインをし、その様子を数人がスマホに撮っていた。あとでインスタ用にちょうだいねー。そう叫ぶマキの背中から自己顕示欲が放出されている。
(しょせん、マキにとって私はただのフォロワーなんやろうな)
なんか、負けたくないな。ハンドルを握る手に自然と力が入った。
「見てみてマキ!新海先生や!」
「え!?どこ?」
「うっそー!わたし先行くで!」
「もうー!あおいズルいでー!」
 マキの「ズルいでー」が風で後ろに押し流されていくのを聞きながら、ギアチェンジして一気に加速した。腰を上げて前傾姿勢のまま、つま先に力をこめ続ける。七月の暑さでみるみる汗が顔をつたっていくけど、風が水分を弾き飛ばしてくれるから平気。
今年の春から片道十キロを自転車で通学している私にとって、遊び半分のマキは相手にもならない。遠くに見えたカーブがどんどん近付いていく。
「いいペースだな、神田!」
 男性の声に顔を上げると、本当に新海先生がグラウンドに来ていたのでびっくりした。外見も中身もイケメンで、私も含め女子から圧倒的な人気を誇る。来月女の子が生まれる予定だけど、あんなお父さんだったらどれだけ嬉しいことか。それに比べてうちの父親なんて足元にも及ばない。タイヤ変えるみたいに、お父さんも交換できないかな。
(神田は部活動も勉強も熱心だな。英語の先生も誉めてたよ)
いつか新海先生に言われた言葉が頭をよぎる。そう、マキに負けたくないことがもう一つあった。それは……。
「キャー!あおいー!!」
「危なーい!!」
 みんなの叫び声がグラウンドに響くと同時に、体の左半身が地面に叩きつけられる衝撃を感じた。気がつくと、ヒリヒリする左足が車輪の下敷きになっていた。
 かけつけてきた新海先生が自転車をどけて、私の肩を持って抱き起こしてくれた。がっしりした腕に触れられて、思わず痛みを忘れるほどドギマギした。

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