終業式の時よりもっと大粒の涙が、私の目から溢れだしていた。
社をあとにした父と私は、近くに止めてあった父の車に乗り込んだ。自転車はトランクに積んだ。“GIANT”と書かれたフレームの太い自転車は、お父さんそのものだ。カッコよくはないけど、ハンドルにクッションが入っていて握り心地はいいし、安定して乗り続けられる。
車のキーがひとりでに回ると、薄暗闇の車道に二本のライトが走った。
「音楽でもかけるか」と運転席から父の声。
カーステレオのスイッチが入った途端、サザンオールスターズの「希望の轍」が流れ出した。
「チャラチャチャンチャン、チャンチャチャチャチャチャン……」
聞こえてくるピアノの音に合わせて、父が口ずさんでいる。
「ヘイ!」
いつかの私と全く同じタイミングで叫んだ父に、思わず笑ってしまった。
「すまん、つい。お父さん、この曲が大好きなんだ」
「おかし」と言いかけて、顔を上げた私は心臓が止まりそうになった。
(お父さんが見える!)
バックミラーの中には、確かにいつものお父さんが映っていた。丸顔でムッとした、でも微かに照れ笑いを浮かべている、私のお父さんが。
目の前には大きな背中と太い腕が、ちゃんと運転席からはみ出ている。腕が動くたび、甘い香りがクーラーに乗って運転席から漂ってきた。これでもう蚊にさされる心配もない。
ミラーの中のお父さんと目が合ったので、私はニッコリと笑った。
「お父さん。私も、大好きやで!」