メニュー

  • トップ
  • 受賞一覧
  • 映画化一覧
  • 作家インタビュー
  • 公募中プロジェクト
  • 創作プロジェクト
  • お問い合わせ
               国際短編映画祭につながる「ショートフィルムの原案」公募・創作プロジェクト 奇想天外短編映画 BOOK SHORTS

\ フォローしよう! /

  • トップ
  • 受賞一覧
  • 映画化一覧
  • 作家インタビュー
  • 公募中プロジェクト
  • 創作プロジェクト
  • お問い合わせ

『エアーお父さんの香り』矢鳴蘭々海


  • 応募要項
  • 応募規定


 終業式の時よりもっと大粒の涙が、私の目から溢れだしていた。
 社をあとにした父と私は、近くに止めてあった父の車に乗り込んだ。自転車はトランクに積んだ。“GIANT”と書かれたフレームの太い自転車は、お父さんそのものだ。カッコよくはないけど、ハンドルにクッションが入っていて握り心地はいいし、安定して乗り続けられる。
 車のキーがひとりでに回ると、薄暗闇の車道に二本のライトが走った。
「音楽でもかけるか」と運転席から父の声。
 カーステレオのスイッチが入った途端、サザンオールスターズの「希望の轍」が流れ出した。
「チャラチャチャンチャン、チャンチャチャチャチャチャン……」
 聞こえてくるピアノの音に合わせて、父が口ずさんでいる。
「ヘイ!」
 いつかの私と全く同じタイミングで叫んだ父に、思わず笑ってしまった。
「すまん、つい。お父さん、この曲が大好きなんだ」
「おかし」と言いかけて、顔を上げた私は心臓が止まりそうになった。
(お父さんが見える!)
 バックミラーの中には、確かにいつものお父さんが映っていた。丸顔でムッとした、でも微かに照れ笑いを浮かべている、私のお父さんが。
 目の前には大きな背中と太い腕が、ちゃんと運転席からはみ出ている。腕が動くたび、甘い香りがクーラーに乗って運転席から漂ってきた。これでもう蚊にさされる心配もない。
ミラーの中のお父さんと目が合ったので、私はニッコリと笑った。
「お父さん。私も、大好きやで!」

10/10
前のページ

9月期優秀作品一覧
HOME


■主催 ショートショート実行委員会
■協賛 アース製薬株式会社
■企画・運営 株式会社パシフィックボイス
■問合先 メールアドレス info@bookshorts.jp
※お電話でのお問い合わせは受け付けておりません。

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10
Copyright © Pacific Voice Inc. All Rights Reserved.
  • お問い合わせ
  • プライバシーポリシー