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               国際短編映画祭につながる「ショートフィルムの原案」公募・創作プロジェクト 奇想天外短編映画 BOOK SHORTS

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『泣いて、笑って、味わって』あまのかえる


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 さつきさん?一瞬誰だと分からなかったが、「さつき」とは母の名前だ。母を下の名前で呼ぶ男性。そしてフランスから帰国してきたばかり。ちょっとさわやかイケメン。一体何者ですか?
 玄関に立っているその男性は、私にやさしく微笑んだ。なんて穏やかな笑顔をする人なのだろう。私は、今井と名乗り、母を「さつきさん」と名前で呼ぶ男性の顔をぼんやりと見つめてしまっていた。
「お線香をあげさせて頂けませんか。」
 男性の声に我に返り、大慌てでスリッパを玄関に並べた。
「あ、はい。どうぞ散らかっていますがお上がりください。」
 イケメンのさわやか笑顔に屈服してしまった私は、素性のわからない男性を自宅へとあげてしまった。それにしても私たち姉妹と年の変わらない男性と母が?え?もしかして母さんの恋人?え?私もお姉ちゃんもフリーなのに?
「失礼します。」
 私は、キッチンへと急ぎ、姉に30歳くらいの今井さんという男性が、母にお線香をあげに来ていることを端的に伝えた。今井は、姉の姿を見ると、丁寧に一礼をし、
「突然押しかけて申し訳ありません。私、今井というものです。さつきさんにお線香をあげさせて頂いてもよろしいですか」
 姉は、自分といくつも変わらない若い男性の突然の来訪に驚き、大きな瞬きをしている。きっと姉も男性の端正な顔にやられているに違いない。一瞬思考が停止していた様子だったが、母を慕う人がお線香をあげにわざわざ来てくれているという健全な解釈を行ったようだった。そこが私と姉の違いかもしれない。私の頭は、母の年下の彼氏疑惑で持ち切りだった。
姉は、少し口角を上げ精一杯の笑顔を作り、今井さんを迎え入れた。姉の笑顔はやはり動揺している。姉は他人を下世話な視点では見ないが、イケメンにはめっぽう弱い。明らかにその動揺は見て取れる。
「暑い中来てくださり、ありがとうございます。こちらへどうぞ」
 と、姉は今井を母の仏前へと案内した。
 なぜ母がフランスに住む若い男性と知り合っていたのだろう。私たちが知らない間にネットで知り合ったとか?遺品に手紙の部類はなかったけれど、母のスマホの中身は、なんだか気がひけて確認まではしていない。そこが盲点だったか。もしかして他にもいるとか?熟女好きな人も多いっていうもんな。私が抱いた疑問とそれについての考察を姉に漏れなく話したい気持ちでいっぱいだったが、男性がお線香をあげる後ろで、姉に促され正座をして待つことにした。

 男性は、母の遺影を静かに見つめていた。とても広い背中だったがその背中には、母の死を悲しむ気持ちがあふれ出ているようだった。

 その背中を見つめていると、なんだか急に私まで悲しくなってきて涙が出そうになり、慌てて涙をぐっとこらえた。男性は、俯きながら涙をぬぐっている。その背中をぼんやりと見つめていると、姉が静かに口を開いた。

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