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『灰に溶ける』斎藤俊介


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近況や他愛もない話、愚痴等をそれぞれ言い合い、時間が過ぎていく。
おもむろに私は煙草に火をつけた。灰皿が見当たらなかったので立ち上がり取りに行こうとすると……
「お前それは……」
慎二が笑いを堪えて私を見ていた。何かおかしなことをしただろうか?
慎二以外も、母まで笑いをこらえているようだった。
不快ではない、むしろ温かい何かで周りが満たされていくような。そんな笑いを皆、私にむけているようだった。
理由を聞いても誰も教えてくれなかった。
そろそろお開きといったところで、母が後片付けを始めたので私も手伝った。
空になったビール瓶をとりあえず台所に運ぶ。その時、今日初めて母と二人きりになった。
「母さん。改めて、ただいま」
「はい。おかえりなさい」
どうして親と二人きりとゆうのは、気まずいような、だからといって不快ではないような、何とも言えない気持ちになるのだろうか
酒の勢いも手伝って私は母に尋ねた。
「母さん……その……色々と辛くはないの?」
母は穏やかだが、気丈な人だ。決して弱みを見せなかった。例え家族であってもそうだった。
そんな母が、父が死んだ時、人目を憚らず声を枯らす程泣いていた。
父は急性心筋梗塞で倒れ、病院に着いたころには手遅れだった。
心の準備というか、覚悟を決める時間があったのなら、母の様子も違ったのだろうか?
泣いている母の様子が頭から離れず、周りに心配をかけまいと一人、この家で泣いているのではないか?
そんな光景を思い浮かべるだけで、胸が締め付けられる。
ならば私に母の心を癒すことができるか?と問われれば、できる。と断言できる程私は自惚れてはいない。
きっと母は穏やかな笑顔を浮かべ、『大丈夫だよ』と言われると思っていたが、母の返答は少し意外だった。
「そうね……この家にいるとお父さんのことをたくさん思い出すから、辛くないといえば嘘ね」
母が言うには、お茶を飲もうとして、お湯を沸かしている時にふと、父がお茶をいれようとして、誤って自分の手にお湯をかけてしまい、慌てて水で手を冷やす様子を思い出したり。
照明の電球を交換する時にも、違うサイズの電球を買ってきて申し訳なさそうに笑う父の様子を思い出したりもしたそうだ。
色々な父との思い出がこの家には溢れていて、それがふとした切っ掛けで鮮明に思い出してしまうと、母は語った。
「正直、この家に居るのが辛くて、いっそ家を手放そうかとも思ったわ。でもね、こうも思ったの」
母は、この家を離れても、きっと父との事を思い出すと言うのだ。なぜなら、父との思い出はこの家だけに、溢れているわけでは無いからだ。と言う。

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