会場は大きな拍手が鳴り響いた。あの気難しい樹さんの両親もかすみに大きな拍手を送っている。隣の樹にいたっては顔をぐしゃぐしゃにして泣いてる。もうほんとすぐ泣くんだから。
私はいつでもお母さんの代わりになろうと必死だった。あの時、日記をみられたくなかったのは、弱いところを見せたくなかったから。日記には確かに弱音をたくさん書いていた。だから見られたくなかった。私はかすみのお姉ちゃんであって、本当のお母さんじゃないこと、そんなこと当たり前のはずなのに。もう少し、あの子に甘えれば良かった。「お姉ちゃん、なんで私をそんなに子ども扱いするのよ」なんて言われた時もあった。もう少し早く気づけばよかった。
あなたは覚えていないかも知れないけど、かすみはまだ四歳だったのに、お母さんありがとうって、すみれの絵を描いて棺の中に入れてたのよ。十二歳の私はただ泣きじゃくってただけだった。ああ、この子は私なんかより、強い子なんだと思った。それでも、私は意地になって母親になろうとしていた。
今こうして、妹として、スピーチをしてくれて私は本当に幸せ。食卓の花が変わるといくつになっても嬉しそうに笑ってくれるあなたがいたから、毎日庭の花を育てられたのよ。あなたは私を我慢してたって言ってたけど、私は我慢なんか、一度もしたことがない。かすみやお父さんのことを思うと、嫌いな虫も先生に勧められた県外の大学を諦めるのも、何もつらくなかったし、怖くなかった。それが家族ってもんなのね。家族を思うだけで、強くなれたり、違う自分に出会えるものなのね。
「カスミソウの花言葉って無邪気、清らかな心っていうのがあるの。この子にもそんな風に育ってもらいたいの。お姉ちゃんかすみをどうか、お願いね。」
もうあの子は大丈夫だよ、お母さん。
「ゆり、今までありがとうね」、お母さんの声が聞こえた気がした。この後、かすみになんて言葉をかけよう。いつもだったら「よくできたね」って言ってるかも。でも今日は姉らしく「やるじゃん」って言ってみようかな。