何食わぬ顔をして進む優輝。目には見えないけど、ダニやノミが沢山いるはずなのに…。怖いもの知らずとは恐ろしい。二人とも、絶対に足が痒くなるやつだよ~!
仏壇の横には、祭壇が置いてあり、ばあちゃんの遺影が飾られてある。祭壇は初盆が終わり次第、撤去するんだとか。それにしてもばあちゃんの遺影、華やか。額縁がピンクである。仏壇の横の壁には、先祖の遺影が飾られているが、三年前に亡くなったじいちゃんの遺影でさえ、木目調の茶色い額縁である。遺影も進化するんだな…。
優輝と祭壇に向かって手を合わせる。ところで、優輝は拝む意味を分かっているのだろうか? ちなみに、俺が優輝ぐらいの時は、「お金が欲しい!」とか「プロ野球選手になれますように!」とか、お願い事をしていた。初詣のノリである。それは、小学校の低学年まで続いた。今思うと、アホだな、俺。って、懐かしんでいる場合ではない。虫のパラダイスから早く脱出せねば!
お袋から預かったアースレッドを取り出す。もちろん、使ったことはない。そもそも、使う機会がなかった。俺の生活には、ノーマットさえあれば、それで充分。
優輝が訪ねてくる。
「それ、な~に?」
「虫をやっつける薬! 人間が吸い込んでも、やられちゃうぞ~!」
優輝、鼻と口を手で覆う。単純だ。それが、可愛かったりもする。
一応、説明書き通りにアースレッドをセットする。煙が出るまで残り一分弱。
「優輝、外に出よ!」
鼻と口を手で覆いながら首を横に振り、嫌がる優輝。理由がわからない。
「早く出ないと優輝もやられちゃうぞ!」
「でも、ダメ!」
またすぐに鼻と口を手で覆う優輝。自分に危険が迫っていることはわかっているらしい。
「何でダメ?」
「大おばあちゃんがやられちゃう!」
と、遺影を指差す優輝。やっと納得。優輝は純粋にばあちゃんが好きなんだな。
ばあちゃんの遺影と優輝を抱え、急いで玄関へ向かう。気分は、爆発物近くの火の海から要救助者を運び出すレスキュー隊。傍から見ると、バーゲンセールで必死に走り回る父親ってとこか。
外へ出ると汗が噴き出す。そんなに慌てる必要はなかった。優輝はキャッキャッ言っている。ばあちゃんの遺影を見ると、心なしか嬉しそうな表情。ばあちゃん、良かったな!