「じゃその日はお風呂は父さんの好み優先だね」
「おう、まかせた」
カズナの蹴ったかなり右に逸れたボールをリアが拾い、シュートした。ゴールネットが盛大に揺れる。試合終了の笛の音が響き、カズナとリアがハイタッチする。客席では両親が手を振っていた。
帰りの車中、後部座席でカズナは熟睡していた。母が運転しながら、助手席でスマホで仕事の相手先と取引のやり取りをしている父の横顔を窺う。
「何だよ」
母が軽く吹き出す。
「別に」
「何だよ」
「いいの、カズナってあなたに似てないな、って思っただけ」
「何だよ」
スマホを胸ポケットに入れる。
「“まわりをよく見る、次の行動、伝える”か・・」
「ルーズリーフ一枚でさ、びっくりしちゃった。私たちに合わせて自分のサッカーの練習時間をつくってさ、しかも、洗濯とか掃除とか、スーパーで買ってきてほしいものとか、誰がいつするかまで全部ちゃんとまとめて管理までしてくれるのよ。おかげで家の中もなんだか落ち着いたわ」
「最初は学校の友達もいないサッカークラブに入るなんていったいどうなるのか、て思ったけど、意外な能力を見つけたってかんじだなー。まあ、いろいろ再考の余地はあるけど、とりあえず今回の目的は達成したんじゃないかな」
まあね、と母も頷く。でもさ、と続ける。
「カズナのおかげで“泉実家チーム”も勝利するかもね」
「なんだそりゃ」
車中が笑い声に包まれる。カズナの寝入った顔にもいつの間にか微笑みが浮かんでいた。