湯に頭まで浸かる。しばらくして浮かび上がると、大きく背伸びをした。と、お腹がなった。
「腹へったあ。どうしようかなあ」
再び湯の中に沈んだ。
風呂からあがると台所で食べ物の捜索を始めた。冷蔵庫も炊飯器にもめぼしいものは見つからない。お菓子やインスタントの類の非常食もない。
冷蔵庫に磁石で張り付けてある母の仕事のシフト表の用紙を確認する。今日は八時までらしい。そのあと母親が買い物などを済ませて帰ってくるのがだいたい八時四十五分である。カズナは時計を見た。現在時刻七時十分。ものすごく遠い目つきをしてから、ちょっとだけため息をつくと、頭を振った。居間のテレビをつける。ソファにもたれながらサッカーの試合の録画を見始める。その間に学校の宿題を片づけ始めた。途中で洗濯終了した合図があった。服やタオルをハンガーに吊し、部屋に干す。宿題が終わり、ソファに横倒しになって眠りかけながら、テレビから流れる観客の声援だけが耳に入ってきた頃、
「ただいまあ」
扉の開く音と、母親の声と、食べ物の匂いがした。
母親はカズナ同様小柄で、ショートカットである。髪はブラウンだった。
母とカズナの二人でテーブルを囲む。おかずは出来合いのものである。
「母さん、父さん今どこ?」
「あ、洗濯物干してくれたんだ、ありがと」
「またスタート押してなかった」
「ごめんごめん、えっとお父さんはね」
スマホのディスプレイを人差し指で何回がなぞる。父親のSNSを見つける。
「大阪だって。たこ焼きの写真を撮ってるから、きっと今回のおみやげはコレだな」
「いつ帰ってくるのかな」
「え、あんたお父さんのこと、好きなの?」
カズナが箸を止めて、目をわざと細くさせ母親を見る。
「そりゃ好きか嫌いかと聞かれれば、好きなほうだけど・・」
「よし、息子にコクられたってコメント残しちゃお」
「絶対やめろおおお」
母親のスマホの奪い合いが始まった。
サッカークラブの練習場には、チームメイト25人が並んでいる。コーチは30代前半の男性だ。
チームを二つに分けて練習試合を行うこととなった。カズナとリアは同じチームになった。