この点を除けば式は大成功だった。皆が笑いまた皆が泣く。そんな式だった。幸弘は婚姻届けを提出した時にはまだ薄かった家族という認識が一層濃くなり、これから家族として支えあっていくこと、また今まで育ててくれた両親に対する感謝の気持ちを抱くように感慨に耽った。
それから一年の歳月が流れ幸弘と里香は引越し作業で大忙しだった。幸弘、里香双方の両親からの援助もありマイホームを購入したのだ。
都内の物件は高くて手が出なかったが都内へのアクセスもいい手ごろな物件を購入した。里香の両親も忙しいなか手伝ってくれた。
「ねえお義母さんとお義父さんにも一度泊まりに来てもらおうよ!私がいろいろ案内するしさ」里香が言う。それもそうだなと思い連絡してみると翌日に両親はやってきた。
「まあ新築の匂いがするわねえ。いいわねえ。ねえお父さん」はしゃぎぎみの母。
「ああ、俺たちも金を出したからこの部分は俺たちの持ち分だな」とよりにもよって幸弘と里香の寝室にあるベッドを指さしながらあこぎなことを言う父。
二人とも結婚式以来の都会に大はしゃぎだ。都会嫌いもなおっているようだ。息子のマイホームにも心から喜んでいる。幸弘と里香が家の案内を隅々まで行う。
「この物件の一番のポイントはベランダなんだよね」ニンマリした表情で鼻をこすりながら幸弘が言う。
「ジャジャーン!どう」
「広い……広いわねこのベランダ!」母が目を大きくする。
「十人ぐらいは余裕で入るよ」得意げに話す幸弘。ベランダのウッドデッキにはテーブルとイスも備え付けられている。
「実はさ、今日里香の両親も呼んであるんだよね。今日はこの地区の花火大会だからみんなで鑑賞しようと思ってさ」幸弘が言う。
「いいじゃないの!楽しみ」母が満面の笑みを浮かべ喜ぶ。
「スイカ買ってあるか?」父が尋ねる。
「もちろん!」幸弘が答える。
時間は午後八時。八月の茹だるような暑さが続く中、今日はカラッとしていて気持ちがいい。花火大会が始まった。両家の親同士もすっかり打ち解けお酌をしあっている。
「やっぱり夏といえばこれでしょ」里香がスイカを切り分け持ってきた。待っていましたと言わんばかりに食らいつく幸弘の父。
「ところであんたたち今度の正月は帰ってくるの」母が聞く。しばしの間の後。
「ごめん。次の正月は行けないや」幸弘の答えに残念そうな顔をする母。
「けど……次のお盆は三人で行くからさ」
幸弘の言葉に目を輝かせ見つめあう幸弘の父、母に里香の父、母。次の瞬間、打ち上げ花火がヒューと舞う。あわせるように飛び上がってバンザイをする両親たち。幸弘の横には照れくさそうにしながらも母の顔つきになった里香がいた。