8月期優秀作品
『KIZUKAI』霧赤忍
幸弘は玄関先で実家から送られてきた着払いの荷物を受け取ると、それをキッチンに置き携帯電話を操作した。荷物のあるなしにかかわらず実家に連絡をする予定だったのだ。
「はい。もしもし奥村ですが……」
「ああ俺だけど」
「健二かい?」
「誰それ?幸弘だよ」
「わかっているわよ。久しぶりね。これはオレオレなんとか対策よ。年寄りの二人暮らしだからねえ――最近はお父さんもどんどん――お隣の山下さんところは――それに……」母のトークは弾みに弾み、終わる気配がない。
「あ、あのさ」このままでは日が沈み、最悪の場合、夜が明けるかもしれないと思ったのか幸弘が遮る。
「何よ、いいところだったのに!」
「あ、そう。ごめん、ごめん。さっきミカン届いたよ、けどさ、何で着払い?」
「ミカン届いたのね。それよりあんた元気にしているの?お盆も正月も帰ってこないから気になっていたのよ」特に着払いの経緯には触れず幸弘の身を案ずる母。
「まあ元気だよ。それより着払い……まあいいか。……それより今度の土曜日にそっちに行こうと思うけど都合いいかな?」
久しぶりの息子の帰省が嬉しいのか母は喜んで了承した。伝えようとしていた要件は言い出せなかったが土曜日には行くことだし、その時でいいだろう。電話をきると幸弘は少し緊張した表情でアパートのキッチンに目を走らせた。
土曜日――
東京で会社員として働く幸弘は有休を一日だけ利用し二泊三日で地元九州に帰省した。最寄り駅からタクシーを利用して実家に向かう。表情には若干の緊張があり、ソワソワする幸弘。気分転換に車の窓を開けてもらう。車窓から覗く景色をみて何か気になったようだ。
「運転手さん、この町ってこんなに小さかったっけ?」幸弘は首を傾げながら聞いた。
「うーん……私はこの町で運転手を二十年やっていますが……考えたこともありませんねえ。お客さんが大きくなったとかじゃないですか。」運転手も首を傾げながら答えた。
「どうなんですかね。そうなのかな」運転手との会話はながくは続かなかった。
まもなくして実家についた。実家を見上げて思った。小さくなっている。区画整理か何かのあおりで縮小されたのかなとバカみたいなことを考えた。そんなアホなと、かぶりを振る幸弘。玄関の前に立つと急に緊張が走った。左に視線を移し軽くうなずくと元気よく扉を開けた。
「ただいまー」
「はいはーい」居間のほうから母の甲高い声がこだました。「早く入りなさいよ」と母が居間から顔をのぞかせた。幸弘が母の顔を確認する。目がまんまると点になっている。目を点にしたまま農作業着姿の母が駆け寄ってきた。
「あんた、そのお嬢さんは?」