わたしの頭の中にいるみーちゃんはまだ消えてない。
遊んだことも覚えてるし、お菓子を分けてあげたことも覚えてる。
ママが捨てようとして抱き上げたみーちゃん。ママにぎゅっとしがみついていた。
ママの胸に顔を埋めて、いやいやするように顔を振っていた。
ママに甘えているのかと思って、わたしも抱っこしてほしいとか言った。
捨てられちゃって、消えちゃうのをわかっていたの?
わたしが忘れたらほんとにみーちゃんは全部消えちゃう。
忘れたらみーちゃんが消えちゃうんだ。
でも、わたしが覚えてるから、みーちゃんはまだわたしの妹。
わたしはまだお姉ちゃんだ。
だってまだ覚えてるもん。
ママが台所へ行った。
わたしは家を抜け出した。玄関のドアを開けて外に出る。
探さなきゃ。
みーちゃん、どこにいるの?
ママに抱っこしてもらってもいいから。
お人形貸してあげるから。
風が吹いてきた。
こっちにおいでと言っているようだった。
風に誘われて歩くと、公園があった。
わたしよりも背が高いお姉ちゃんがブランコに乗っていた。みーちゃんのことを見たか訊いてみよう。
「あの、みーちゃんを見なかった? 背はこのくらい。わたしの妹」
わたしは自分の胸のあたりを手で示した。たぶん、みーちゃんの背はこのくらいのはずだ。
「早紀ちゃん、こんにちは」
「こんにちは」
お姉ちゃんが挨拶してきたので、わたしも挨拶した。でも、わたしが訊きたいのはみーちゃんのことを見たのかどうかだ。
「みーちゃんのこと見なかった?」
「いつも、見てるよ」
お姉ちゃんは答えた。
「いつも?」
「うん」
お姉ちゃんはにこりと笑った。
「お姉ちゃんは……」
わたしは何を言ったらいいのかわからなくて言葉が出なかった。お姉ちゃんを見つめた。そうしたら「早紀ちゃんもお姉さんじゃん」と、お姉ちゃんが笑った。けたけたと笑った。
「うん、お姉さんになった。美優が生まれて」
わたしは答えた。
「お姉さんになるってことは、お母さんが二人のお母さんになるってことなんだよ。早紀ちゃんだけのお母さんじゃなくなっちゃうの。わかる?」
「わかる」
そう、わかる。わかってるけど。
「だから、お母さんは早紀ちゃんのお母さんだし、美優ちゃんのお母さんでもある。美優ちゃんが生まれる前は早紀ちゃんだけのお母さんだったからね。でも今は二人のお母さん」