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『妹なんか、捨ててきて』高瀬ユキカズ


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 本当に世界から美優が消えてしまったのだろうか。まさか、そんなはずはない。
 どこに行ったの、美優……。
 出会う人ごとに三歳くらいの女の子を見なかったか訊いて回った。だけど、誰も見ていないと言う。
 一人目の葵を妊娠していた時によく来ていた公園へやってきた。小学生くらいの女の子がブランコに乗っていた。立ち漕ぎをしてゆらゆらとブランコを揺らしている。早紀より二、三歳ほど上だろうか。その子と目があったので、近づいて訊ねた。
「あの、三歳くらいの女の子を見なかった?」
 その女の子は私の目を見つめ、にこっと笑って答えた。
「二人ならだいじょうぶかな、って思ったんだ」
 二人なら……何のことだろう。
「あの……」
 私は続く言葉が出なかった。
 女の子はブランコを止め、そこに座った。女の子が私に隣のブランコに座るように指で示してきた。私はそれに従って座った。
「もう少ししたら、早紀ちゃんもお手伝いできるようになるから、そうしたらだいじょうぶだよ」
 女の子から早紀の名前が飛び出した。
「早紀のことを知っているの? もしかして早紀のお友達?」
 女の子は首を傾けた。
「三人だったらもっと大変だったね。ぱんくしちゃうよ」
「ぱんく? 何のこと?」
 話が噛み合わない。きっと、美優のことは見ていないのだろう。私は早く美優を探さなければならない。
「ごめんね。娘を探しているの。行かなきゃ」
 私はブランコから腰を上げた。すると女の子は空を指さした。私は、空を見上げた。視界が薄紫色だったので、空も薄紫色だった。
 雲が静かに流れ、風が頬をくすぐる。夏も終わり、秋の虫たちが鳴き始めていた。夕暮れが近づく。いつのまにか美優のことも早紀のことも忘れ、穏やかな気持ちになっていた。
 こんなふうにゆっくり空を見ることもなかった。いつから空は薄紫色だったのだろう。私が忙しすぎて、疲れすぎて、空の色も変わってしまったのだろうか。
「疲れちゃった……」
 思わず口から漏れていた。
「だいじょうぶだよ。たぶん、だいじょうぶ」
 女の子が呟いた。そのままいっしょに空を見ていたら、空が徐々に薄紫から薄い青に変わっていった。

   *

 おもちゃも絵本もなくなって、写真もなくなった。
 捨てられると全部なくなっちゃうんだ。
 ママの頭の中からもいなくなっちゃうんだ。
 みーちゃんのすべてが消えちゃおうとしている。

 わたしもお姉ちゃんじゃなくなっちゃうのかな。
 でも、わたしはまだ覚えてる。

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