みーちゃんの絵本といっても、わたしが小さい頃に使っててみーちゃんにあげた絵本もある。それはあるけど、最近買ったみーちゃんの絵本だけがなかった。
わけわかんない。
ママがみーちゃんを捨ててくるのに、みーちゃんのおもちゃとか絵本も持っていっちゃったんだ。おもちゃと絵本は置いておいてよかったのに。
そうだ、みーちゃんの写真を消してやろう。
わたしは写真の消し方を知っている。もう捨てちゃったんだから、写真もいらないはずだ。デジカメを引っ張り出して電源を入れる。
再生ボタンを押して写真を表示する。
でも、みーちゃんの写真がない。ママが消した?
家族で温泉に行った写真にもみーちゃんだけが写っていない。
これ、みーちゃんだけ消せるんだ。
「ママ、みーちゃんどこに捨ててきたの?」
「捨てた? さっきから何のことを言っているの?」
「みーちゃん。妹の美優。さっきわたしの髪を引っ張った美優」
「妹? 早紀には妹なんかいないじゃない」
ママは不思議そうな顔をしていた。
***
「ちょっと待って、状況を整理しなきゃ」
私は確かに美優のことを覚えている。お腹を痛めて産んだ子だ。忘れるなんてありえない。
でも早紀の記憶からは美優のことが消えている。
家の中からは美優がいた痕跡がなくなっている。
私は旦那にLINEでメッセージを送った。
《至急連絡をちょうだい。美優が家の中からいなくなったの。まるで、神隠しにでもあったみたいに。》
早く、早く返信して。仕事中かもしれないけど、旦那に電話したほうがいいのか。でもその前に母に相談しようと思った。
母はここから三駅離れたところに住んでいる。時々、早紀と美優の面倒も見てもらったりしていた。母に電話をかけた。
『あ、お母さん。ちょっと美優がいなくなって大変なの。あのね……』
ところが私の話をさえぎるように『美優? 美優って誰のことよ』とスマホから母の声が聴こえる。わたしの頭は真っ白になっていた。しばらく母と会話をしたが、母の頭からも美優のことは消えているようだった。
母との電話を切ったあと、ほどなくして旦那からLINEの返事が届く。
《美優って誰だよ。早紀と間違ってんのか? 意味わかんないぞ。わかるように書いてくれよ。》
まるで美優が最初から生まれてこなかったかのようだ。そんなはずはない、そんなはずは。
どうしよう。私が美優を捨てようとしたから?
私は最後の行動を辿ってみた。美優を抱き、リビングから玄関へ。そこで靴を履こうとした。
ドアの鍵はあけていなかった。
そのはずなのに、玄関へ行くとドアは僅かな隙間をあけて開いていた。
「さっき、鍵はしまっていたはず。気のせい? それとも美優が一人で外に行ったの?」
私はドアを開けて外に出た。早紀を家に残すことになるが、来年は小学生だ。一人でも大丈夫だろう。今は美優を探さなければ。私は探す宛もないまま、家を後にした。