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『妹なんか、捨ててきて』高瀬ユキカズ


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 私と旦那と早紀と美優と四人で写っている。そう、写っているはずだった。
「美優だけ……いない……」
 そこには美優以外の三人の姿しかなかった。 
 私はガラスの扉がある棚を開ける。その最上段、大人がやっと手が届く高さに目をやる。
 ある。確かにある。
 そこには産着があった。長女になるはずの、娘として生まれてくるはずだった葵のために買った産着。早紀が生まれる二年前に妊娠し、死産になってしまった娘のためにここに産着といくつかの女の子用のおもちゃを置いてある。
 私の視界はまだ薄い紫色のベールが覆っていた。産着の色とほぼ同じだから同調して色はよくわからないが、それでも確かにここに薄紫色の産着があり、おもちゃがあるってことは葵が生まれることができずに死んでしまったという事実は残っている。
 一番下の美優が生まれた証だけが消えてしまったということだろうか。

   *

 見えるものが全部むらさき色。
 目が変になったかも。
 みーちゃんがいない。さっきこっちに来たのに。
 ママがリビングに戻ってきた。
「もうみーちゃんを捨ててきたの?」
 わたしはママに訊ねた。でもママは首を傾げる。
「みーちゃん? 何のこと?」
 ママはとぼけている。
 本当にみーちゃんのこと捨てちゃったの。
 捨てるの早い。
「別に、みーちゃんなんていなくてもいいもんねーだ」
「みーちゃんて誰かな? 幼稚園のお友達?」
 もういい。ママの言うことはわけわかんない。
「みーちゃんいないから、みーちゃんのおもちゃは早紀のものね」
 みーちゃんのおもちゃも、みーちゃんの絵本も早紀がもらっちゃおう。
 でも、みーちゃんの服は小さいからいらない。
 わたしはみーちゃんのおもちゃがまとめてある箱を探した。みーちゃんのおもちゃは赤い箱、わたしのおもちゃはピンクの箱と決まっている。
 だけど、赤い箱がどこにもない。
「ママ、赤い箱がないよ」
「ん? 赤い箱って?」
「みーちゃんのおもちゃ箱」
「みーちゃんの?」
 ママは首を傾げる。なんか話が噛み合わない。ママの言っていることはよくわかんないし、これまでもよくわかんないことがあった。
「もういい」
 わたしはみーちゃんの絵本をもらうことにした。本棚へ向かう。
「みーちゃんの絵本もない……」

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