「いなくなったって、誰が?」
早紀との会話が成り立たない。子供との会話ではたまにあることで、あまり気にしなかった。
「美優がこっちに来なかった?」
「美優って誰?」
ふざけているのだろうか。私は美優を探してリビングを出る。だが、他の部屋にもトイレにも台所にもいなかった。念のため玄関を見たが、ドアには鍵がかかったままだ。外に出たとは思えない。
美優を探しているうちに、ふと違和感を抱いた。なんだか部屋がすっきりとしすぎている気がする。この家はもっと物で溢れていたはずだ。
ふたたびリビングへ戻り、早紀に声をかける。
「どこにも美優がいないの。本当にみーちゃんのこと見なかった?」
私は早紀の目を見ながら真剣に訊ねた。たとえ六歳であっても、真剣に訊ねるとその空気を察してくれる。早紀もそのくらいには成長していた。
「だから、みーちゃんとか美優とかって誰のこと? 幼稚園のお友達にもそんな名前の子はいないし」
早紀は憮然とする。冗談を言っているようには思えない。どういうこと? だってさっき喧嘩をしていて、美優を捨ててきてって確かに言ったのだし。
いったい美優はどこに行ったのだろう。
私はリビングを見回す。いつもの家ではないような違和感。その正体が気になった。
そしてその違和感に気がついた。
「美優のおもちゃは?」
この部屋には早紀の物しか見当たらない。美優の絵本なども本棚から消えている。
「美優のおもちゃって何? わけわからない」
本当にわからないかのように早紀は話す。
「妹のことをわからないってどういうこと」
私は訊ねたのだが、「妹って何?」と早紀から返ってくる。
「妹は妹でしょ。お姉ちゃんなんだから」
私はリビングを出る。仕方ない、洗濯をしてから美優を探そうと洗濯機に向かった。だがそこには早紀の洗濯物しかなかった。
「あれ?」
思わず呟いた。おもちゃや絵本だけではない。美優の服までがない。まさか。
私は子供たちの服をしまってある部屋に向かい、タンスを開けた。
「ない……」
美優の服だけがなかった。
「どういうこと?」
軽いパニックに陥る。美優の物が全部ない? まさか。なんで?
私は部屋中を駆け回る。美優の物を探すが、何一つ見つからない。探しながら、電話の脇においてあった写真立てが目に入った。家族で撮った写真だ。