みーちゃんなんかいなくていい。
もう捨てられちゃえ!
でも、みーちゃんだけが戻ってきた。
ママが捨てに行ったはずなのに。
みーちゃんがわたしのほうへと近づいてくる。
何でこっち来るの。
いまならママがいない。
みーちゃんのことを叩いてやろう。
わたしは手を上げた。奥歯を噛みしめる。
叩いてやる。
絶対、叩いてやる。
みーちゃんなんて。
でも叩けなかった。
くやしい。
涙で視界が滲んだ。
廊下から、風が吹いてきた。
涙で見えにくかったから、目をごしごしとこする。
いつのまにかみーちゃんの姿が消えていた。
どこにもいない。
それに、部屋の中の色がおかしい。
目から血が出ちゃったの?
見える色がおかしい。
赤と青の両方をまぜたような色。
部屋の中がそんな色。
むらさきって言うんだっけ、これ?
うすいむらさき色。
***
私はいったいどうしたのだろう。美優を玄関まで連れてきたのだが、突然視界が薄い紫色に染まった。
美優は早紀のところへ行ったのだろうか。
私は玄関からリビングへと戻った。
早紀がソファに座っていた。
「早紀、みーちゃん来なかった?」
「みーちゃん?」
早紀が疑問形で聞き返してくる。
「お母さんが靴を履こうとしたらいなくなっちゃったの」