「みーちゃん、痛い。髪、ひっぱらないで」
おもちゃを貸さないとみーちゃんはすぐに髪を引っ張る。
ママに言いつけてやる。
「ママ、ママ、みーちゃんが髪を引っ張る!」
わたしの叫びが届き、わたしのママがやってくる。
早く助けて、ママ。
「ほら、みーちゃん。お姉ちゃんが痛がっているから、手を離しなさい」
ママはわたしのママだ。
みーちゃんのママじゃない。わたしのママだ。
みーちゃんなんか叩いちゃって。
あと、叱って。「妹なんだからがまんしなさい」って言って。
でも、ママはみーちゃんを抱きかかえて、わたしの髪を摑むみーちゃんの手を押さえるだけだ。
「早紀もお姉ちゃんなんだから、そんな人形渡しちゃいなさい」
ママはわたしにきつい口調で言う。
なんで? なんでわたし?
悪いのはみーちゃんなのに。わたしは悪くないのに。
このお人形はわたしのなの。
涙がぼろぼろ出る。
髪を引っ張られて頭が痛い。
みーちゃんが悪いのに。
涙が止まらない。
みーちゃん、やだ。
ほんとに、いやだ。
みーちゃんなんていらないと思った。
捨てちゃえばいいと思った。
なんで、みーちゃんなんか産んだの。
みーちゃんなんて叩いてやる。
わたしは手を振り上げた。
でも叩けない。
叩けばきっとまたママに怒られる。
涙がぼろぼろ出る。
ひっくひっくとしてしまう。
「なんでみーちゃんなんて……産んだの……。妹なんて……いらなかったのに。みーちゃんなんか……いらない。捨ててきて!」
ひゃっくりがでるから、うまくしゃべれない。
ママがみーちゃんを捨ててくると言って、みーちゃんを抱き上げた。
みーちゃんがママにしがみつく。
ずるい。みーちゃんばかり抱っこして。
わたしも抱っこ……。
ママは何かを言ってそのまま玄関へ向かった。
わたしはソファの上に立った。
腰に手を当てて玄関の方に消えたみーちゃんを睨みつける。