照子の不在を受け入れらないクラスメイト達の心を、暗い影が蚕食する。
飴野は気を失いそうになる。
「よっぽど飴野の隣が嫌なんだね。だから休んだんだよ。ねえ? 皆もそう思うでしょ?」
幕田真里亜が嘲笑した。同調圧力を感じたクラスメイト達も笑った。
パジャマで登校してしまうほどドジっ子の真里亜は、本来は同調圧力をかけるようなタイプではない。クラスメイト達も同調圧力に屈するような生徒ではない。いよいよ照子不在の影響が出てきたようだ。
幹斗がのっそりと立ち上がり、出来の悪いマエストロのように手の平をクラスメイトらに向け、笑いを制止する。
「照子は頭を怪我して、治療のために剃髪したんだ。ツルツルに。だから恥ずかしくて登校できないんだよ。誰か、学校に来られるようにしてくれないかな? 俺の姉を、俺の家族を助けてください! お願いします!」
嫉妬、鉄仮面、地下牢、幽閉。いったい誰が言い出した飛語だと皆が互いの顔を見合わせたが、皆がほんの少し信じていたし、皆が照子の華麗な脱出劇を見たいと思っていた。だから額づいて哀訴嘆願する幹斗を、皆は直視できなかった。
飴野はとうとう気を失った。
海光ジンが飴野の背中をバチンと叩いて喝を入れる。
「なあ、飴野。クラスメイト全員がツルツル頭になれば照子は学校に来るよ。木を見て森を見ずってヤツだ」
木を隠すなら森の中という突っ込みはこのさい飲み込んで、飴野はさらに話を促す。
「全員ツルツルを提案しろよ。絶対、照子は飴野に感謝する。そのうち感謝が尊敬に変わって、尊敬が恋心に変わって、濃密な夏休みを過ごせるぜ?」
ジンは、飴野が照子に惚れていることを知っている。飴野は、ジンが誰に惚れているのかを知らない。それゆえジンは支配的ポジションに立っていた。
ジンが満を持して立ち上がる。
「ちょっと聞いてくれ。これは飴野の提案なんだけど、クラスメイト全員ツルツル頭になるというのはどうだろう? 木を見て森を見ずだよ。そうすれば照子も登校できると思うんだ。クラスメイトは家族みたいなもんだろ?」
木を隠すなら森の中、と突っ込む生徒はいない。
ジンに促されて、飴野も立ち上がる。
「皆、ツルツルになろうよ!? 一人は皆のため、皆は一人のため! ワンフォー坊主、坊主フォーワンだ!」
クラスメイト達は飴野を大絶賛した。たった一人、真里亜を除いて。
真里亜は今や死語となったカリスマ美容師にカットして貰ったばかりだった。
大抵、カット後の四日間は髪の毛が落ち着かないけれど、五日経てばあら不思議、髪の毛はしっくりするものだから、ほとんどの女子は自らを芸能人のようだと勘違いする。古今東西の男達から恐れられている「魔の五日後」だ。
よりにもよって飴野は照子不在の教室で、魔の五日後を迎えた女子の前でツルツルを提案してしまった。
真里亜が教室を見まわす。