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『あの日のわたしへ』あきのななぐさ


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受け入れられない心には、何故という疑問しか入ってこなかった。

 
でも、私は知っている。
あの笑顔は何も考えていないわけではないことを。
その時の私は気付けなかったが、今ではそのことを知っていた。

 
「ボタンを掛け違えているんだ。お義母さんはその方法を見失っているんだ」
そう言って知った風な口をきく夫の顔が、その時は正直疎ましかった。

 
母の買い物には決まって洗濯用洗剤、消臭剤が入っていた。
色んなものを詰め込んでいたが、必ずその2つが入っていた。

あの時のように、あのおばあさんの買い物かごにも入っている。
気にしているのか、気にしていないのか定かではない。
全く考えていないのかもしれない。

でも、夫はそう考えていたようだった。

「洗濯と消臭ってさ。つまるところ、尿漏れを気にしているんだよ。お前に悪いと思う気持ちがあるんだよ。その気持ちの表現方法を忘れてしまっている。お前に感謝していると思うよ。だから、その負担をどうにかしたい。その気持ちの表れなんだと俺は思うな」

母の尿には結局のところ対応できなかった。
パットは限界まではき続けたし、おむつは自分から脱ぎすてた。
最後の方には、トイレの場所さえわからなくなっていた。

なぜか、決まった場所でするので、夫がそこにトレーを置いたらその場所にするようになった。
母専用のトイレがそこに出来上がった。
母なりに感じていたのかもしれない。今となってはその気持ちを聞くことすらできない。

「もういいわ。目が離せないから連れてきたのに、これじゃあ、買い物もできないわ」
清算をしている過去の自分を、ただ眺める。
本当に伝えたいことは、むしろそのために逆効果になっていた。

「ほら、そろそろお前が言ってあげたら?そのためだろ?」
それまで黙っていた夫は、私の葛藤に気が付いたのだろう。そっと背中を押してくれた。

 
「そうね、私は理解できるわ。本当に大変なのよ?あなたは見ているだけだったけどね」
憎まれ口だが、夫は笑顔で答えてくれた。

理解してくれる人がいる。
それだけで、ずいぶん楽になるものだ。

 
「奥さん、大変ですね。わかりますよ。ウチもそうだったから」
教えてあげよう。私の事。

まだ生きている母と私が、後悔しない生き方ができますように。

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