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『あの日のわたしへ』あきのななぐさ


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普通ならそう思う。
しかし、その笑顔には見覚えがあった。

「また!待っててって言ったじゃない!なんでかってに並んでるの!」
その声は、これまでの和やかな世界を切り裂いていた。
自然とその声の主と矛先が注目を集めていた。

その声、その感情。
そこにはかつての私がいた。

「これも、これも。全部まだあるでしょ!こんなに買ってどうするの!」
金切り声が、周囲に不快感をまき散らす。
おばあさんのにこやかな雰囲気は、その声の主を一層貶めるものだった。

あの笑顔はたちが悪い。
ついそう思う自分がいた。

紛れもなく、一年前の自分がそこにいた。
同じセリフで、同じように、その笑顔の仮面に切りかかっていた。

頭では分かっている。
言っても仕方がないことを。

言葉では分かっている。
母のその時の状態を。

あの笑顔は、認知症の笑顔だ。
どこまでも、愛想がよく、どこまでも身内をいらつかせる。
そう、身内にとってはそんな笑顔に感じたのだ。

実際、仕事の場合は別だった。
あの笑顔に癒される。
暴力を振るうわけではない。
にこやかな笑顔は、仕方がないなと思わせてくれた。

けれど、それが自分の母の場合は別だった。
仕事は仕事として割り切ることができていた。
それまでのことを思うと、そう考えると納得がいった。

 
あの頃、夫には2歳の子供と同じなんだといわれていた。
できないことが当たり前なんだと。
期待をするから、その反動で怒りが生じるのだと言われた。

そんなことはわかっている。
頭では理解をしているつもりだった。

家中に尿の臭いが充満する。
ほっとくと家から出ていきそうになる。
目を離すと、何をするかわからない。
何でもその辺に放置する。

そんな母親は見たくなかった。厳しくも優しい母とそうでなくなった母が、今でも私の前に現れる。
受け入れたくない感情が、私の心に理解という場所を与えなかった。

だから、期待とか、理解とか、そういう言葉は無意味だった。

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